「やぁ、アシュ。」
「ロスにぃ?! どうしたの? あ、私を連れ戻しに来たのね!」
「ははは、違うよ。一体、どんな景色が見えるのか、俺も見てみたくなったんだ。」
「ロスにぃも?」
「隣、良いかな?」


その木の上の方に生えている枝の中では、特に丈夫で太い枝に腰を掛け、風が吹いても落ちないようにと幹にしっかりと掴まっていたアシュ。
突然、その幹の下方からニュッと顔を現したアイオロスに驚き、彼女はその大きな目を真ん丸に見開いてみせた。
そんなアシュに向かって、いつもの優しい笑顔を向けたアイオロスは、もう少しだけ上へ登ると、彼女の答えを待たずに風のような速さで枝の上、アシュを飛び越えてその隣へと移動していた。


「おお、本当に良い眺めだ。海も見えるのか、驚きだな。」
「キレイでしょー。私、この場所が大好きなの。」


アイオロスはアシュの背後からそっと長い腕を伸ばして、自分と幹の間にいる彼女を支えるように幹に手を付いた。
これで、何かあってもアシュを受け止められる。
例えば、不意に強い風が吹き付け、大きくバランスを崩したとしても大丈夫だ。


「しかし、アシュはこんなに我が侭でお転婆で、大丈夫なのかな? 将来が心配だよ、兄ちゃんは。」
「我が侭……。お転婆……。」
「そうだろ? こんな木の上に登って、しかも、黄金聖闘士を困らせるなんて、相当な我が侭お転婆さんだ。」
「そんな事ないもん。」


アイオロスの遠慮ない言葉に、アシュは子供ならではの白くぷっくりとした頬を、更にプッと膨らませて不機嫌に顔を顰めてみせた。
アイオロス達が聖闘士になる事を定め付けられているように、アシュも将来は神殿や教皇宮に勤める女官になる事が決められていた。
今はまだ幼く、愛くるしい幼女だと皆に可愛がられていても、そのうち女官としての凛とした立ち居振る舞いと、仕事を確実にこなす能力を身に付けていかねばならないのだ。
今のアシュを見ていると、本当に大丈夫なのかと少なからず心配になる。
彼女達に最低限必要な優雅さとしとやかさを、果たしてこのお転婆なアシュが身に付けられるのだろうか?


「アシュだってなれるもん。大きくなったら、女官さん達みたくキレイになるもん!」
「まぁ、アシュは美人にはなるだろうが、こんなお転婆じゃなぁ……。女官どころか、嫁の貰い手もいないんじゃないか?」


こうして言い返す行為そのものが、女官としての資質が低いと如実に示しているという事、幼い彼女には分かっていないのだろう。
だが、膨れて言い返すアシュの振る舞いの、なんと可愛い事か。
思わず煽るように彼女をけしかけてしまう、その怒った顔を見たさに。





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