ずっと貴方だけを
ずっと君だけを


想っていました――。






1.幼き日の思い出



十四年前、夏――。


「お〜い、アシュー! 早く降りて来いよー!」
「アイオリアの言う通りだ! そんなトコロにいては危ないぞ、アシュ!」


聖域一見晴らしの良い丘の上。
高く大きく立派な木の上を見上げて、アイオリアとシュラは途方に暮れていた。


「平気だもん! 全然、危なくなんかないもん!」
「いや、危ないよ、アシュー!」


自分の真下から聞こえてくるアイオリアの困った声など軽く無視し、アシュの視線は遠くに見える街と、その先に広がる大きな海に釘付けだった。
時折、緩やかに吹き付ける暖かな風が、まだ少女の柔らかな髪を揺らす。
聖域の外の大きな世界を見渡せるこの木の上が、アシュにとっての特等席、そして大好きな場所だった。


「どうする、シュラ? 登って、無理にでもアシュを抱え下ろそうか?」
「……。」


既に黄金聖衣を得ているシュラ、そして、近々、同じく黄金聖衣を授けられる事が決まっていたアイオリア。
共にまだ子供とはいえ、その身体能力は大人の白銀聖闘士を遥か凌駕している。
どんな高い木であれ登る事は容易だし、アシュを抱え下ろす事だって何の苦もなく出来るだろう。
しかし、シュラは暫くジッと木の上を黙って見つめた後、視線を落とし、それを提案するアイオリアに向かって左右に首を振ってみせた。


確かに、自分達であればアシュをあそこから下ろす事は容易い。
しかし、それをしてしまえば、アシュの機嫌を著しく損ねる事も、またはっきりと分かっていた。
たかが少女一人如きに、と思われるかもしれないが、毎日、生と死の狭間を行き来する血の滲むような殺伐とした修練に身を投じる彼等にとって、お陽様のように明るいアシュの存在と笑顔は、ひと時の安らぎそのものだったのだ。


「どうするんだよ、シュラ。」
「彼女が、自分で降りてくるのを待つしかないだろうな。」
「でもっ!」


いくら運動神経が良くて身が軽いといっても、アシュは普通の女の子。
聖闘士候補生ならば、何かの拍子に滑り落ちたとしても、軽い怪我で済むかもしれない。
だが、身体を鍛えていないアシュが落ちたならば、命さえ危ない。
今、彼女はそんな高さにいるのだ。


「お前達は、ココで待ってろ。俺が行ってくるから。」
「兄ちゃん?!」
「アイオロス、いつの間に……。」


不意に背後から聞こえた声に振り返ると、そこには自分達と同じように木の上を見上げるアイオロスの姿があって、吃驚とするアイオリアとシュラ。
この時間は、後輩指南で闘技場にいる筈。
そんな彼がいつの間にやってきたのだろう?
だが、それを聞く間もなく、アイオロスは目の前の大きな木の太い幹にしがみ付き、目にも止まらぬ速さで登り始めていた。





- 1/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -