「っ?! ろ、ロスにぃっ?!」


不意に全身を強く締め付けられる感触に、アシュは一瞬、何が起きたのか分からなかった。
だが、直ぐにアイオロスによって抱き締められたのだと気付き、激しく狼狽した。
大好きな人に抱き締められた喜びよりも、ココが外である事、人の目に触れてしまうのではないかという心配の方がアシュには大きくて。
抱き締められた事で自由になった手で、強くアイオロスの胸を押し返し、何とか逃れようとした。


だが、相手は黄金聖闘士。
華奢で非力な彼女の力では全くビクともしない上、返って、抱き締めるアイオロスの腕に力が籠もっただけに終わった。


「ろ、ロスにぃ! あの、誰か人が来たら、困るから……。」
「関係ない。」


アイオロスの腕の中、自分の今の状況に訳が分からず、困惑して小さく暴れるアシュ。
そんな抵抗も軽々と抑え込み、一旦、腕を緩めたアイオロスは、すかさず彼女の両腕を取ると、その腕ごと抱き込むように自分の胸に押し付けて、再び強くアシュを抱き締めた。
身動きすら取れなくなって観念したのか、全く抵抗しなくなった彼女の柔らかな身体を、接する服越しに感じ取り、アイオロスは満足気に長い溜息を唇から漏らす。
自分の首筋に顔を埋めたアシュの髪をゆっくりと撫でながら、その頭頂部にアイオロスも顔を埋めて、髪から香る仄かな花の香りで鼻孔をいっぱいに満たした。


「アシュ。」
「は、はい……。」
「俺もアシュの事が好きだ。戻って来てからというもの、ずっと自分を抑えるのに必死だった。アシュが好きで好きで、気が狂いそうな程に好きで、いつか暴走してしまうんじゃないかって、自分自身が信用出来なかった。」
「ロスにぃ……。」


アイオロスの唇が触れる頭の先から、直接に響いて聞こえる言葉。
ずっとずっと好きだった人から伝えられた、真っ直ぐな告白の言葉。
抱き締められているせいで、ドキドキと大きく音を立てる胸の高鳴りが邪魔をして、聞こえなくなりそうな彼の声を、アシュは耳を澄まして必死に聞いていた。


これは夢ではないの?
本当なの?
まだ混乱する頭の奥で思いながら、それでも、髪に触れるアイオロスの熱い手の感触に、嘘でも夢でもないと分かる。


「でも、抑える必要なんてなかったんだな。俺がアシュを好きで、アシュも俺を好きだと言ってくれるのなら……。」
「ロスにぃ。ずっと、ずっと好きだったの……。」
「うん、ありがとう、アシュ。俺も好きだ、アシュの事が、誰よりも。」


髪に触れていた筈のアイオロスの手が、優しくアシュの頬を包んでいた。
そして、その指先が頬を辿り、そっと顎を撫で、力は入れられていないのに、有無を言わせずに軽く上を向かせる。
予想外の流れに、思考がついていっていないのだろう。
アシュは目を見開いたまま、瞬きもせずにきょとんとしてアイオロスを見上げていた。





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