途中まで足早に歩を進めていたアイオリアだったが、扉の前でピタリと止まると、平然を装ってプライベートルームのリビングへと足を踏み入れた。
そこで彼を待っていたのは、彼の兄であるアイオロスと、アシュリルの兄のシュラだった。
昨日から、ずっとアシュリルを探し続けていたのだろうか。
二人共に、とても疲れた表情をし、何処となく顔色も悪かった。


ただ、その顔を険しく顰めているアイオロスとは対照的に、シュラはいつもの無表情に戸惑いの影を浮かべていた。
訳も分からず、理由も聞かされないまま、獅子宮まで連れてこられたようだ。
この二日間、一睡もしていないだろうシュラの寝不足な上、焦燥で疲れ切った顔には、はっきりと困惑の色が見て取れる。


「随分と朝早いな、アイオリア。ちゃんと服まで着て。」
「兄さん達が来た気配がしたから、慌てて着替えたんだ。それまではぐっすり寝ていたさ。」
「その割りに、着ている服は、昨日と同じものだな。」
「それは……。その、慌てていたから、その辺に脱ぎ捨ててあった服を着たんだ。仕方ないだろう?」
「何故、慌てる必要がある?」


このような早朝に訪れた理由も告げる事なく、いきなりアイオリアに詰め寄るように質問攻めにするアイオロス。
それに対して、何処となくしどろもどろに答えるアイオリア。
そんな二人を、未だ困惑した様子で、シュラは黙って眺めている。


「アイオリア。お前、今、書庫に繋がる扉から出てきたよな。」
「っ?!」


アイオロスはアイオリアの背後にチラリ、視線を送る。
確かに、その背の向こう側の壁には、書庫へと繋がる小さな扉があった。
アイオロスの宮にも、そして、シュラの宮にも同じものがある。
そこは宮を守護する者以外、誰一人として立ち入る事の許されない場所。


「その中、か?」
「な、何の事だ、兄さん? 言っている意味が分からんが。」
「アシュリルだよ、そこに居るんだろ?」


ハッと息を呑む音が、明け方の静かな部屋に響く。
そして、見開いたシュラの視線に耐えられず、アイオリアは無意識に視線を逸らした。


「そんな事、ある訳ないだろう……。」
「お前は、この兄を見くびっているのか? 嘘を吐いている事くらい、お見通しだ、アイオリア。」
「……。」
「彼女がいなくなったというのに、お前はヤケに冷静だった。その落ち着きが怪しいと思っていたんだ。」


だが、アイオロスは確信が持てなかった。
だから、まずは可能性のあるところを全て探して、それでも見つからないようであれば、アイオリアがアシュリルを隠しているのだろう、と。
結果、この聖域の何処にも彼女の姿はなく、アイオロスの推測を裏付けたのだ。
アシュリルは獅子宮の何処かに閉じ込められているのだと。


「アイオリア、お前は分かり易い。お前がアシュリルに惚れている事くらい、黄金なら皆が知っていたさ。なぁ、シュラ?」
「あ、あぁ……。」
「そのお前がだ。アシュリルが行方不明と聞いて、落ち着いていられる筈がない。ミロやデスマスクと同じくらい、いや、それ以上に彼女を必死になって探すだろう。でも、お前はそれをしなかった。」


淡々と続けるアイオロスは、ジワジワとアイオリアの方へと詰め寄っていった。
アイオリアは顔を上げる事が出来ない。
その一言一言が、胸の内側へと飛び込み、深く突き刺さっていく。





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