「シュラ。俺達も、もう一度、探しに行こう。」
「あぁ。」
アイオロスとシュラが、先行した二人に次いで出ていこうとした、その時。
十二宮の階段を上ってきたアイオリアが、姿を見せた。
アイオリアは、朝から聖闘士候補生達の訓練に当たっていた。
自宮から真っ直ぐ闘技場へと向かったため、今の今まで、この騒ぎを知らずにいたのだ。
「どうした? 何の騒ぎだ?」
「あぁ、アイオリア。丁度良かった。お前も手伝ってくれ。」
アイオロスに呼び止められ、アイオリアは首を傾げて二人を交互に見る。
だが、アシュリルが行方不明になった話の一部始終を教えられ、アイオリアは困惑気味に表情を曇らせた。
「それで、彼女はまだ見つからないというのか?」
「あぁ。何処にもいない。」
悲痛な面持ちで首を振るシュラの暗い表情。
アイオリアの胸は、罪悪感にキリキリと痛む。
「一応、一通りは探したんだがな。アシュリルのいた痕跡すら、見つからないんだ。」
そう言って、アイオロスが小さな溜息を吐いた、その時。
突然、シュラが血相を変えて、アイオリアに詰め寄った。
「アイオリア! お前、アシュリルに会ったのか?!」
「何っ?! 本当か、リア?!」
アイオロスが一歩前へ出ると同時に、シュラはアイオリアの腕を掴み、グイッと引っ張り上げていた。
その手首には、いつもの銀のバングルが光っている。
「皆には言ってなかったが、アシュリルは昨日、これをお前に返しに行くと言って、磨羯宮を出ていった。つまり、お前がこれを身に着けているという事は、昨日、アシュリルに会ったという事だ。違うか?」
シュラの鋭く厳しい瞳が、突き刺すようにジッとアイオリアを見据えている。
アイオリアは、心の奥でシュラに深く謝罪した。
だが、だからと言って、本当の事は口が裂けても言う訳にはいかなかった。
「これは、リビングのテーブルに置いてあったんだ。多分、俺がいない間に来て、置いていったんだろう。アシュリルには、会っていない。」
「本当か?」
更に鋭くなる視線。
全てを見透かされそうな気がして、アイオリアの心は揺れ動いた。
「勿論だ。これが……、置いてあったからな。」
そう言って、アイオリアはポケットに押し込んだままになっていた置手紙を差し出した。
走り書きだが、それは明らかにアシュリルの書いた文字。
それにはバングルを見つけた経緯と、それを獅子宮へと届けに来た旨が書いてあった。
「手掛かりはなし、か……。」
一言だけ呟いて、シュラは暗い表情で俯いたまま、アシュリルを探しに磨羯宮を出ていく。
その後ろ姿が何とも痛々しく、アイオリアの心は益々、揺れ動く。
「……なぁ、リア。」
「ん? 何だ、兄さん?」
シュラが出て行った後。
それまで黙って見ていたアイオロスが、アイオリアの肩に手を掛けた。
「お前、ヤケに冷静だな?」
そしてまた、アイオロスもシュラの後を追って磨羯宮を出ていく。
後に残されたアイオリアの心に、その一言が鋭い槍となって突き刺さっていた。
→第10話へ続く