最初はゆっくりと緩やかに、だが、直ぐにそれは早く激しいものへと変わっていく。
有り余る程の力と若さ、そして、彼女への強過ぎる想い。
それがアイオリアを突き動かし、アシュリルの身体を手加減なく揺さ振る。


「はっ! あっ! あ、あ、あ、ああっ!」
「アシュリル、アシュリル……。」
「んっ! あっ! く、苦しっ……。」


アシュリルが苦しさを訴えたところで、余裕のないアイオリアの耳には届かない。
無我夢中で愛しい女の身体を貪り、その極上の感触に溺れ沈んでしまっているのだ。
つい数時間前、初めての情事を経験したばかりのアシュリルに対する配慮も思いやりも、そこには全くない。
ただひたすら奪う、野生の雄の本能だけがそこにあった。


「あ、ああっ! んっ! こ、壊れる……、くうっ!」


アシュリルの瞳から流れる雫が、大粒の涙へと変わる。
それは決して身体に与えられる痛みとか苦しみから来るものではない。
身体は苦しくとも、それ以上の歓喜が奥から奥から湧き上がってくるのを感じている。
アイオリアと共に、意識の遠くなるような喜びの淵へと駆け上がろうとしているのを分かっているから。
そう、身体ではなく、心が痛かった、苦しかった。


アイオリアの為にずっと大切に守ってきたもの、それを彼自身の手で無残に奪い取られたという事実。
愛している人に抱かれていながら、愛し合っているのではなく、一方的に愛されているだけだという事実。
どんなに真っ直ぐな気持ちを伝えたとしても、決して受け入れては貰えないという事実。
そして、ただ身体だけが、彼の手で快楽の極みへと向かおうとしているのだ。


「いやっ! あっ、あっ! あ、り、リア様っ!」
「アシュリル。あぁ、アシュリル……。」


あらゆる事が、アシュリルの心を引き裂き、無慈悲に傷付け、痛め付けた。
身体を伝う鈍い痛みも、その奥から湧き上がる、痛みを越えた深い喜びも、本来ならば幸せの証である筈だった。
なのに、今はそれも全て悲しみへと向かってしまう。


アイオリアとアシュリル。
お互いに想い合っているのに、心は決して繋がらない。
身体は一つになっているのに、心は一つには重ならない。


求めても求めても、触れる熱い肌に縋っても、その心を開いてはくれないのだ。
哀しい瞳で自分を見下ろしてくる、この黄金の獅子は。


どんなに堪えても、アシュリルは零れる涙を止める事が出来なかった。
痛みからでもなく、ましてや喜びからでもない涙。
愛する人と愛を交わしながら流す、孤独の涙。
その涙を、アイオリアは何度も熱い唇と舌で掬い取った。


「あ、アイオ、リア、様……。あ、あ、ああっ! あああああっ!」
「うっ、アシュリル! アシュリル!」


終わりの時が近付き、一際高い嬌声が狭い部屋の中に響いた。
二人同時に眩いまでの絶頂を迎え、全身を震わせて燃え滾る身体を抱き締め合う。
ベッドが壊れそうな程に激しかった動きが、行為の後の尾を引く快感を引き出すようにゆっくりとしたものに変わり、アシュリルは朦朧とした意識の中、アイオリアの緑の瞳を見つめていた。
うわ言のように吐き出された吐息――、どちらのものとも分からぬ切ない吐息が、暗闇に飲まれて消える。
二人の抱き合う小さな部屋を、ただ夜空に浮かぶ月だけが照らしていた。



→第9話へ続く


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