8・闇に痛む胸



目が覚めた時、アシュリルはアイオリアの大きく逞しい身体の上にいた。
二人並んで眠る事すら出来ない程に、狭く小さな簡易ベッド。
アシュリルは華奢な身体の全てをアイオリアに預け、その腕の中に閉じ込められるように抱き締められていた。


身体は自由に動かなかった。
アイオリアにしっかりと抱き締められているせいもあるが、無理に行われた激しい行為の名残も大きく、身体中が痛みに悲鳴を上げて、力が入らない。
仕方なく、息を潜めて視線だけを辺りに彷徨わせた。


部屋の中は既に真っ暗だった。
ベッドの直ぐ上に見える小さな窓からは、細い月光が射し込んでいる。
丁度、窓の真ん中に浮かぶ月の位置から、あれから五・六時間は経っている事が分かって、アシュリルの心に焦りの色が浮かんだ。
このような時間まで戻らないとなると、兄であるシュラは、きっと酷く心配しているに違いない。


アシュリルはアイオリアの逞しい胸板と触れ合っていた自分の身体を、何とか起こそうと試みた。
まるで鉛のように重くなった身体の奥に、ズキリと鈍い痛みが走る。
その痛みに顔を顰め、それでも、声一つ上げずに堪え切ったアシュリルは、自分の背と腰に回されているアイオリアの太い腕を、彼を起こさないように外そうと、自分の手を掛けた。


「――やっ?!」


だが、幾らぐっすり眠っていたからといっても、その気配に気付けないアイオリアではない。
年若いとはいえ、彼は黄金聖闘士。
腕の中の相手が目を覚ませば、その気配だけで目が覚めてしまう。


「駄目だ、アシュリル。」
「アイオリア、様……。」


アシュリルの手がアイオリアの腕に掛かった瞬間、彼はその腕を逆に捕まえ、巧みに身体の位置を入れ替えていた。
アイオリアの身体の上に乗っていた筈のアシュリルは、狭いベッドのマットに沈められ、何処までも暗い瞳で自分を見つめるアイオリアの切ない表情だけが、彼女の視界を埋め尽くす。
圧倒的な力で組み敷かれ、元々、自由には動かなかった身体から、更に力が抜けていく気がした。


「ココから――、いや、俺から逃げる事は許さん。」
「あっ……。や、ん、んんっ!」


伸びてきた大きな手が、無遠慮にアシュリルの身体を弄(マサグ)り始めた。
無意識に漏れ出そうになる嬌声を堪え、アシュリルは唇を噛み締めアイオリアを見上げる。
自分を見下ろすアイオリアの瞳は、何処までも暗く翳り、その深い緑色の中に哀しみの色が滲み出ているように見えた。


愛を交し合う行為を行いながら、それを繰り返せば繰り返す程に、その瞳は深く濃く哀しみの色を帯びていくように、アシュリルには思えた。
どうして、そんなにまで苦しそうな顔をしながら……。
何故、こんな事をしているの?
アシュリルは腕を伸ばして、自分を組み敷くアイオリアの頬に触れ、それから柔らかな髪に指を通した。
アイオリアの大きな身体が、アシュリルの上に圧し掛かったまま、ビクッと揺れる。






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