6.銀のバングル



その翌日の事だった。
執務を終え、自宮へと帰って来たシュラがソファーの上で寛いでいると、パタパタと可愛らしい足音を立てて、アシュリルが駆け寄ってきた。
いそいそとした様子と、やや上気して赤らんだ頬。
何事かと思い、シュラはソファーに埋もれていた上体を、慌てて起こす。


「どうした、アシュリル?」
「あの、これ……。」


ソファー横に屈んだアシュリルが、手に握り締めていた『もの』を、おずおずとシュラに差し出した。
彼女の小さな手の平に乗っていたのは、見覚えのある銀のバングル。


「これは……、アイオリアのバングル、か?」
「あ、やっぱり兄さんも、そう思う?」


シュラが、そのバングルを手に取るのを見ながら、アシュリルは微かに微笑んだ。
そんな妹の表情を横目で見やりながら、シュラはバングルを光に翳す。
傾きつつある太陽の光に翳して初めて分かったが、そのバングルは裏面に『Eternal Love』という文字が刻まれていた。


あぁ、そうか、そういう事か。
瞬時に、このバングルの意味を理解したシュラ。
だが、その事をアシュリルに言ってしまっては、野暮というもの。
シュラは黙って、妹の手の上にバングルを戻した。


「何処で見つけたんだ?」
「午前中、浴室のお掃除の時に。」


脱衣所の隅に落ちていたのを見つけたのだ。
拾った瞬間、それがアイオリアがいつも身に着けているものだと分かったのだが、一応、念のため、シュラの意見を聞いておこうと思い、兄の帰宅まで待っていた。
もしかしたら、兄弟で同じものを持っている可能性だってある。
そうだとしたら、アイオロスの持ち物なのかもしれないし……。


「そういえば、昨日、シャワーに入る前に腕から外していたのを見た。間違いなく、アイオリアのバングルだろう。アイオロスが、そういうものを身に着けているのを見た事もないしな。」
「じゃあ、アイオリア様が今頃、探しているかもしれないし……。獅子宮まで届けに行っても、良いかな?」


なるほど、こっちはそういう狙いで、この時間まで待っていたのか。
バングルを見つけた時間は午前。
その時間に届けに行っても、アイオリアは執務か修練で留守の可能性が高いが、夕方の今なら帰宅しているかもしれない。
更に赤味の増したアシュリルの頬を眺めながら、シュラはニヤリと意地悪そうに笑った。


「まだ夕方だ。届けに行っても構わんが、狼には気を付けろよ。」
「え? 聖域に狼なんて、いた?」
「男は皆、狼と言うからな。アイオリアとて、例外ではないだろ?」
「そんな事! アイオリア様は紳士よ! それに、私なんてそういう対象にも入ってはいないだろうし……。」


徐々に音量が落ちていくアシュリルの声。
自分で言って、自分で落ち込み、俯いてしまう。
どうして、アイオリアの気持ちに気が付かないのだろう、この鈍い妹は。
アイオリアの態度も、あんなに分かり易いというのに。


「そうムキになって怒るな。冗談だ。」
「もう! 兄さんったら……。」
「気を付けて行って来いよ。」
「うん。」


アシュリルはもう一度、大切そうにバングルを握り締め直すと、足早に磨羯宮を出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、苦笑いの止まらないシュラ。
全く、妹の恋は、なんと分かり易いのだろう。
やれやれと思いながら、シュラは再び柔らかなソファーに沈んだ。





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