5.すれ違う心



それから数ヶ月の時が過ぎた。
聖戦が終わって以降、大きな争いもなく、世界も、そして、聖域も平和な日々が続いていた。
所々に生々しい激戦の爪跡が残ってはいたが、それも日を追う毎に修復され、元の状態へと戻りつつある。
そんな中、十二宮には以前と変わらぬ日常が戻り、アシュリルも穏やかな笑顔を取り戻していた。


そして、変わらないものが、もう一つ……。


「アシュリル、今から天蠍宮に来ないか。最近、評判の美味いケーキを買ってきたんだ。」
「そんなケーキなど、いつでも食える。それより巨蟹宮に来い。俺の特製イタリアンを食わせてやるぜ。」


キンキンと良く通るミロの声。
それを打ち消すように、強い口調で被せてくるデスマスクの声。
どちらもアシュリルを自宮へ誘おうと、躍起になっている。
だが、それらの誘い文句に答えたのは、アシュリルではなくシュラだった。


「お前等、アシュリルは忙しいんだ。早く帰れ。」
「なら、せめて夕食を一緒に食わせてくれ。親友の頼みじゃねぇか、な。シュラ。」
「俺も、俺も! 俺も一緒に夕飯、食いたい!」


額に怒りマークを浮かべたシュラが二人を追い出しに掛かるのも、以前と変わらぬ光景。
それに必死で縋り付くデスマスクとミロの姿も、全く変わらない。
そして、最終的に聖剣を構えて睨み付けてくるシュラに恐れをなして、逃げるように磨羯宮を去って行く二人の姿も、まるで同じようだった。


「相変わらずだな、あの二人……。」
「全く、何とかならんのか、アイツ等。いい加減、追い出すコッチも疲れてくるというものだ。」


逃げた二人と入れ違いに、磨羯宮へとやってきたアイオリアが呆れ顔で呟いたのを聞いて、シュラは困り顔で渋い表情をする。
だが、それも直ぐに消え去り、シュラは軽くフッと笑みを零した後、アイオリアの肩を軽く叩いた。


「丁度良かった、アイオリア。夕食、食って行かないか?」
「良いのか? アイツ等を追い出しておいて、俺が邪魔するなど……。」


アイオリアが遠慮の姿勢を見せるのも変わらない。
そういうところが、この宮の主にとって好ましく、他の二人を追い出しても、アイオリアなら食事の席に呼びたいとさえ思わせるのだ。


「お前は良いんだよ。アイツ等のように騒いだりしないし、何よりアシュリルが喜ぶ。」
「そうか。なら、お邪魔しよう。すまんな、いつも。」


そして食卓を囲めば、以前と変わりない和やかな雰囲気が彼らを包み込み、楽しい食事の時間が訪れる。
ただし、たった一つを除いて……。





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