2.淡い恋の芽生え



「相変わらずシュラの作る飯は美味いな。」


食べ盛りのアイオリアは、遠慮せずに口いっぱいにパエリアを頬張ったまま、向かい側のシュラとアシュリルに視線を送った。
テーブルには三人前以上はあるボリューム満点なスペイン料理。
アイオリアは勿論、シュラもまだ十代。
毎日ハードな修練をこなす二人には、このくらいの量は簡単に平らげる事が出来るのだ。


「残念だが、今日は俺じゃない。そのパエリアだけは俺が作ったが、残りの料理は全部、アシュリルが作った。」
「そうなのか?」
「はい。あの、アイオリア様のお口に合うかは分かりませんが、一生懸命作りました。」


仄かに頬を赤く染め、キラキラと輝く瞳を向けるアシュリル。
アイオリアはパチパチと数度、瞬きを繰り返した後、彼女から食卓の上へと視線を移した。
アシュリルと目が合うと、酷く息苦しくなるのは、どうした事か?


「凄く美味いぞ。これ、この卵の料理。」
「トルティージャ、ですか?」
「あぁ、そうだ。シュラが作ったものも食った事はあるが、それ以上に、このトルティージャは美味い。」
「ありがとうございます。嬉しい、です。」


息苦しさを跳ね飛ばすためと、アシュリルと目を合わさないようにするため、その両方を兼ねて、アイオリアは目の前の料理を勢い良く掻っ込む。
その見事な食べっぷりを、アシュリルは目を柳のように細めて、ニコニコと見つめていた。


アシュリルは決して口数が多くない、寧ろシュラと似て寡黙な方だったが、それでも場が白けたり気まずくなったりしないのは、彼女が聞き上手だからだと気付いたのは、食事も終わりに近付いた頃だった。
シュラとアイオリアが話している内容を耳を傾けてジッと聞き、必要な時だけ、短く要領を得た言葉を返す。
見た目には、やや幼さも残っているが、やはり自分よりかは年上なのだろう。
シュラが十八歳だから、彼女は十七歳か十六歳か……。


「アシュリルはお前と同じ歳だぞ、アイオリア。」
「えっ?!」
「今、十五歳です。」
「本当か? 一・二歳は年上かと思っていたが。」


アイオリアが素直にそう言うと、細めていた瞳はそのままに、苦笑を浮かべるアシュリル。
失礼な事を言ってしまったと慌てるアイオリアに向かって首を振って制し、またニコニコと柔らかな笑みをみせた。
思春期頃の女の子は、男よりも精神的には早く大人になるという。
だからだろうか?
だが、アシュリルの落ち着いた雰囲気と穏やかな性格は、やはりもって生まれたものなのだろう。
彼女の真横に座るシュラと見比べ、この落ち着き様は遺伝なのだと思い直した。





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