「す、すみませんっ! わ、私とした事が、わ、忘れていました! すみません、すみませんっ!」
「何を?」
「え?」
「何を忘れていたんだい、アイリス。」


目の前のアフロディーテ様の顔に浮ぶのは、極上の微笑。
細められた瞳、柔らかに弧を描く唇、ゆったりと余裕の表情。
それが返って恐ろしい。


「た、誕生日です。アフロディーテ様の……。」
「そうだよ、良く出来ました。」


さて、と言って、ワザとらしく音を立てて立ち上がる。
そのゆっくりとした動作に、ビクリと反応してしまう私。
あぁ、これからどうなってしまうのかしら?
クビ、程度なら良いけど、体罰とか、折檻とか、そんな事は、まさかないですよ、ね?


「宮主の誕生日をド忘れするような悪い子には、お仕置きしなきゃいけないね。アイリスは、どんなお仕置きされたい?」
「そ、そんな! あ、あの……、その……。」


焦る私に、笑みを絶やさず迫り来るアフロディーテ様。
どうしよう、もしかして私、生きてこの宮を出られないんじゃ……。
そんな気すらヒシヒシとしてくる。


「早く決めないと、私が勝手にお仕置きするけど。それで良いんだね、アイリス?」
「え? えええ?! や! ちょっと、そんな、待って下さい!」


いやいやいや!
良い訳ないじゃないですか!
って、アフロディーテ様、いつの間にか、手に真っ赤な薔薇を持ってるし!
それって、もしやのもしやで、『魔宮薔薇』とかいうアレですか?
だとしたら、私なんて即死だ、あっと言う間もなく、あの世行きだわ。
こんなところで、突然、短い命を終える事になるだなんて……。


クスクスクス……。


「……え? あれ?」


赤い薔薇を持っていた手が伸びてきて、私の髪に触れた。
それと同時に、私を見下ろしていた筈のアフロディーテ様が、スッと身を屈めて。
至近距離で見る、その美しい顔に、息が止まりそうになった。
先程までの冷酷さを含んだ微笑とは違う、心から楽しそうな微笑みを浮かべて、手にしていた薔薇を耳の上に挿す仕草。
一分の隙もなく完璧と言うか、スマートで、優雅で、本当にこの人は聖闘士なのだろうかと疑いたくもなる。


「……毒薔薇じゃ、ない?」
「当たり前だ。私が一般人、ましてや女性相手に、聖闘士の力を使うと思うのかい?」
「あの……。」
「全く、キミは世話が焼ける。」


そして、もう一度、伸びてきた手が、髪に挿してあった薔薇を引き抜き。
何が何だか分からない内に、サイドに垂れた髪を掬い上げて耳に掛け、そして、また薔薇を耳の上に挿し直す。
その際、長い指の一本が耳の縁を思わせ振りに掠って、刹那、ゾワリと身体の奥から湧き上がる震えが全身に走った。


「あぁ、やっぱり似合うね。アイリスは耳を出した方が綺麗だ。」
「え?! 綺麗って……。」
「アイリス、罰として今夜の伽を命じる。」
「と、伽っ?!」


伽(トギ)って事は、私の身体でアフロディーテ様に奉仕するという事であって、男と女の関係が。
いや、男女の関係というより、ただのご奉仕だから、身体だけの関係になるという事で。
そ、そんないきなり寝所に上がれだなんて、夜までは時間があるとはいえ心の準備が……。


クスクスクス……。


アワアワしている私の前で、またも楽しそうに抑え切れない笑いを零すアフロディーテ様。
瞬間、それが冗談だと分かり、私は恥ずかしさで顔から火が出る思いだった。



そんな素敵な笑顔で、からかわないで



「もう! 酷いです、アフロディーテ様!」
「酷いのは、そっちだろう? 私の誕生日を忘れるなんて、悪い女官だ。」


まるでデスマスク様のようなニヤリ笑顔を浮かべて、サラリと流し目で見やる、その色っぽさときたら!
私のお仕えする黄金聖闘士様は、とってもとっても意地悪なのでした。


でも、そんな彼が、大好きなんですけどね。
まだまだ秘密ですけど。



‐end‐





何やら色々と間違いだらけですが、魚誕記念と言い張ります(苦笑)
相変わらず性格が破綻しているウチのお魚様。
いつか白薔薇が飛んでくるんじゃないかとハラハラしてます。

そんなこんなで(フライングですが)、お誕生日おめでとう、アフロディーテ様!
この話書きながら、ウチのロス太(マイPC)さんが何度も『亜風呂ディーテ』と変換してくれた事はココだけの秘密にしておきますw

2011.03.06



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