クスクスクス……。


楽しげな笑い声が聞こえ、ハッと顔を上げる。
アフロディーテ様は、先程からの優雅な笑みをグッと深めて、抑え切れない笑い声を零していた。
まるで、からかわれている私の姿が、おかしくて仕方がないとでも言いた気に。


「嫌なら嫌って、ハッキリ言えば良いのに。」
「そ、そんな事……。」
「思ってもいない、だなんて言わせないよ、アイリス。思いっきり顔に出てるのに、今更、誤魔化してどうする?」
「えっ?! あ、あの、それは……。」
「やっぱり図星か。」


しまった……。
また上手い事、アフロディーテ様に引っ掛けられてしまったわ。
何だか、いつもいつも、こうして弄られて遊ばれているような気がする。


「酷いです、アフロディーテ様……。私をからかって、そんなに楽しいですか?」
「あぁ、ゴメンゴメン。ちょっとやり過ぎだったかな? でも、悪いのはアイリスだから、仕方ないだろう?」
「え? 私、何かしましたか?」


変わらず優雅な笑みを湛えたまま、私が悪いと言い張るアフロディーテ様を、私はきょとんと見返した。
でも、全く身に覚えがない。
彼を怒らせるような事、怒らせるまではいかなくても、気に障るような事を仕出かした覚えは何もないけれど……。


「本当に忘れているんだね。全く、キミは酷い子だ。」
「は、はぁ……。」
「じゃあ聞くけど、今日は何の日だ?」


え、今日?
今日って、何か特別な日でしたっけ?
三月十日だから、『3』と『10』で……。


「さ、砂糖の日、とかですか? もしくはミントの日、とか……。」
「そうきたか。まさか語呂合わせでくるとは思わなかったよ。」


あからさまな失望の溜息。
綺麗な容姿の人の、こういう失意の表情は、本当に破壊力ありますね。
何だか、とても悪い事をしてしまったようで、胸にグサリとくる。


「あながち間違ってはいないんだろう。調べれば、そういう日も出てくるかもしれないが、私が言っているのは、そうじゃない。」
「す、すみません……。」
「質問を変えようか。では、今日生まれの人は何座になる?」
「今日だと……、魚座でしょうか。アフロディーテ様と同じですね。」
「そこまで出ていながら、何故、分からない? キミは本当に、この宮の女官か?」
「あっ!!」


その瞬間。
彼が何故、不機嫌なのか、彼が何を言いたかったのか、その理由に思い至った。
それと同時に、自分のやらかした事の重大さに、背中に走る戦慄。
ゾッと全身から血の気が引く感覚に、目眩すら覚えた。


あぁ、どうしよう。
『不機嫌にさせてしまう』を通り越し、これでは『完璧に怒らせてしまう』コースに一直線だ。





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