「分からんなどと、どの口が言えるのだ、この愚兄が。全て貴様が悪い。」
「何だと? 私が一体、何をしたと言うのだ?」
「仕事にばかりかまけおって、アイリスの事を放ったままにするからだ。お陰で、俺は便利な乗り物の如く、アイリスを抱えてココまでクソ長い階段を走らされたのだぞ。それ相応の見返りがないとやってられん。」


すると、私の腕の中でゴロゴロと擦り寄っていたアイリスが、何やらモゾモゾと動き出した。
肩から斜め掛けにして提げていた鞄から、次から次へと物を取り出しては目の前のデスクの上に並べていく。
そこに書類がある事もお構いなく、その上にドンドンと。


「これがお弁当。これが水筒、中身は濃く淹れたコーヒーね。で、こっちが携帯食、目眩がした時なんかのカロリー摂取用だから。あと、これ! ムウ様に頼んで特別に貰ったのよ、強力栄養ドリンク!」


言葉もなく唖然と見ていた私を腕の中から見上げ、ニコリと笑ったアイリス。
その視線を直ぐに鞄の中へと戻すと、今度は着替え一式と、皺一つない綺麗な法衣を取り出して、その横へと並べた。


「とりあえずは食べ物と着替え。放っておくと、そのままで何日も過ごすんだもん、サガは。」
「アイリス……。」


私を心配して来てくれたのか……。
カノンに抱かれてきたのは少々気に障るが、私をこんなにも想ってくれていたと言うのならば、これほど嬉しい事はない。
その場にカノンがいる事にも構わず、私は腕の中にスッポリと収まっているアイリスをギュッと抱き締めた。


が――。


何故か、途端に腕を突っ張って顔を背けられた。
その上、ワタワタと私の腕から逃れ、距離を取るアイリス。
何だ?
急に何があったのだ?


「サガ……、臭い。」
「は?」
「何だか汗臭い。もしかして、お風呂も入ってない、とか?」
「ハハハッ、これは傑作だな! 聖域一の風呂好き男が、ずっと風呂にも入ってないとは!」
「黙れ、カノン。仕方ないではないか、風呂に入る暇もないくらい忙しかったのだぞ、この三日間は。」
「やっぱり入ってないんだ。しかも、三日間も……。」


気のせいではない、明らかに冷たい視線が返ってくる。
そ、そんな目で私を見ないでくれ、アイリス!
私とて好きで不潔にしている訳ではないのだ。
ゆっくりと風呂に浸かり、疲れを落として寛いぎたいと、この三日の間で何度そう思った事か。


「サガ。とりあえず、コレ。三十分くらい休憩したって、誰も怒らないよ。シャワー浴びてさっぱりして、着替えして、お弁当食べて栄養つけて、それから張り切って仕事の続きすれば良いでしょ。こんな身体の状態じゃ、返って効率悪いよ。」


そう、そうだな。
私は少し頑張り過ぎているのかもしれない。


「たった三日間で、顔色も随分と悪くなってる。」
「心配か、アイリス?」
「当たり前。好きな人の事を心配しない人がいるなら、会ってみたい。」


そう言って、離れていた距離を詰めると、スッと背伸びをしたアイリス。
私の肩に手を掛けて瞼を閉じた彼女の身体が不安定に揺れて、慌てて細い腰へと腕を回した瞬間。
スッと触れた唇の温かさに、心の奥がトクンと優しい音を立てた。



唇から元気をあげる



「ムウ様特製の栄養ドリンクもあるけど、今はこれで代用。なんてね。」
「代用か。だが、ムウのドリンクより効き目がありそうだ。」


そして、微笑むアイリスを引き寄せ、もう一度、重ね合わせる唇と唇。


「おい、俺の存在を忘れるんじゃないぞ、お前等……。」


私達のキスシーンを目の当たりにしたせいか、カノンの声は呆れ返っている。
今はアイリスを横抱きにしていた事への腹立たしさも消え、彼女をココまで連れて来てくれたコイツに感謝の気持ちすら覚えていた。
勿論、心の中でだけ、だがな。



‐end‐





双子誕だというのに、仕事でグッタリのサガ様w
相変わらずウチのサガはワーカホリックです。
サガのお相手は、基本的に天然甘えん坊キャラが好みなので、いつもこんな感じの子ばかりですが、需要があるんでしょかねぇ……。

とりあえず、まずはサガ、おめでとう!
Happy Birthday!



→(NEXT.カノン)


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