Love Balloon



「アフロディーテ様、こんにちは。」
「やぁ。時間通り来たね、アイリス。」


今日の朝になって、突然、誘ったティータイムだというのに、アイリスは嫌な顔一つせず、この双魚宮まで来てくれた。
他の女官達の目を盗んで抜け出してくるのも、この宮まで下りてくるのも大変だったろうに。
そんな事は全く表情には出さずに、満開の花のような笑顔を私に向けてくる。
この笑顔に、いつも癒されているな、私は。
任務や執務に疲れた時、色々な事に嫌気が差した時、彼女に笑顔を向けられるとホッとする。


「向こうに準備は出来ている。行こうか?」
「わぁ、薔薇園でお茶ですか? 嬉しい。」
「ふふっ。そんなに喜んでもらえて、私の方が嬉しいよ。」
「そんな事……。きっと、この薔薇園でアフロディーテ様とティータイムを過ごせると知ったら、誰もが大喜びすると思います。」


可愛らしく首を傾けて微笑む仕草と、私をたてる謙遜した物言い。
そんなアイリスに強く惹かれて止まない心が、勝手に走り出しそうになるのを何とか堪えて。
私は軽く微笑み掛けると、彼女の華奢な肩を抱くように薔薇園へと誘(イザナ)った。


二人きりのティータイムは上々。
和やかな雰囲気、弾む会話。
空は今日という日を祝福するかのように、そして、これから実行しようとしている私の計画を後押しするかのように、雲一つなく晴れ渡っている。
手にしていたティーカップをそっと受け皿に戻すと、私は手を伸ばして、風に揺られて頬に掛かったアイリスの髪を払ってやった。


「アイリス。ほら、これを……。」
「え、何ですか、これは? 風船?」
「そう、キミに。バレンタインチョコのお返しにね。」
「でも、ホワイトデーは、まだ先ですよ?」


首を傾げるアイリスの手を取って、私は強制的にその風船に括り付けられた細い棒を握らせた。
金色をしたハート型の風船は、子供が遊ぶ普通のゴム風船のように中が透けては見えない。
中身が見えては、この計画は台無しになるからね。
今の私の心の中を覗かれたら、きっとどこぞの蟹のようにニヤリと笑っているのがバレてしまうだろう。


「良いんだ、今日で。今日だという事が大事なんだから。」
「??」


目を真ん丸くして疑問符を浮かべるアイリスは、それはそれで、また可愛らしくて。
この計画を実行した事が間違いではなかったと、まだ達成出来てもいないのに、もう既に満足感を覚え始めている自分がいる。





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