朝の執務室。
項垂れたままの俺がトボトボと部屋へ入っていくと、それに気付いたミロとカミュに囲まれた。


「で、アイオリア。今日はアリナーに、ちゃんとチューしてもらえたのか?」
「聞くな、ミロ。アイオリアのショボくれた顔を見れば一目瞭然だろう。その質問は厳しいぞ。」
「そういうカミュの言葉の方が、ずっと厳しいと思うぞ、俺は。」


あぁ、もう何とでも言ってくれ。
最初の頃こそ、ミロやカミュ相手に真剣に相談もしてたが、この頃では、どんなアドバイスも無駄だと分かり、何も言わなくなった。


「キスもまだなんじゃ、アッチの方は全くだろ。大丈夫かよ、アイオリア。」
「大丈夫とは、どういう意味だ?」
「どういうって……。溜まるだろー、色々と。一緒に住んでるんじゃ、特にさ。こうムラムラっと……。」


ミロが前に突き出した両手を、何かを揉むみたいにヤワヤワと動かす。
ああ、成る程、そういう事か。
しかし、手付きが怪しい上に、目が危ないぞ、ミロ。


「そりゃあ、毎日、ムラムラとはするが、今の状況ではな。アリナーに手を出すなんて土台、無理な話だ。」
「二人、別々の部屋で寝ているのか?」


カミュの質問に、俺はフルフルと首を振った。
俺にとっては拷問にも近いが、こんな状況にも係わらず、俺とアリナーは一緒の部屋、一つのベッドで眠っている。
しかも、並んで寝ているだけならまだしも、殆どの夜を俺がアリナーを腕に抱いて眠っているのだ。
アリナーが、そうして欲しいと強請るから。


「それは……、マジで拷問だな。同情するよ、アイオリア。いっそ問答無用で圧し掛かっちゃえば良いのに。」
「いや、流石にそれは……。」
「そうだぞ、ミロ。キス一つで、あんなに悩んでいるアイオリアが、そんな思い切った事を出来ると思っているのか?」
「だからこそ、反動で暴走したっておかしくないと思うけど。」
「アイオリアは意外にフェミニストだ。アリナーが嫌がる事は出来まい。」
「アリナーが嫌がるなんて有り得ないって。だったら、最初からアイオリアと付き合ってないだろ。こうなったら、押し倒した勢いでキスをして、そこからアッチに雪崩込むのが良いんじゃないか? それならアイオリアもアレコレ考えて構えたりしないだろ。」


何だか、俺とアリナーの事だというのに、好き勝手言われ放題。
だが、それも仕方ない。
全て不甲斐ない俺が悪いのだ。


「で、良いのか、このままで?」
「い、良い訳はないのだが、だからと言って……。」
「そうやって無駄に悩むから、深みにハマるんだって。」


そうなのだろうか。
だが、幾ら何でも、あのアリナーを押し倒すなど、とてもじゃないが俺には出来そうにない。
勿論、押し倒して、組み敷いて、そういう事を致してしまいたい気は満々にあるのだが、心だけこうも焦って、それに行動が伴っていかないのだ。
これは、最早どうしようもないのではないのか。
何をどうしたところで、俺とアリナーの年の差が埋まる訳でも、彼女との関係性が変わる訳でもない。
彼女は年上で、そして、優秀な女官で。
だからこそ、何に於いても頼りになるアリナーに対しては、遠慮の気持ちが大きくなってしまう。
これでは、いつまで経っても、本当の恋人同士にはなれないのではなかろうか。





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