「まあ、座れ。」


見事な夜景をバックに、プリプリと怒りの表情を浮かべて立っているアリナーに向かって、俺は苦笑を堪えながら手招きをした。
自分が座ったソファーの空いた部分をポンポンと叩くと、促されるままに隣へと座る。
こういうところが小動物っぽくて可愛らしい。
そして、何よりも無防備。
そこが、やはり気に掛かる。


「どういうつもりですか、アイオリア様?」
「そんなもの、この状況を見れば、言わなくても分かるだろう。」
「分からないから聞いているんです。」
「俺も皆から鈍い鈍いとは言われるが、アリナーはその十倍は鈍いな。」


そう言うと、見下ろすアリナーの頬が、また怒りにプッと膨れた。
それが、まるで木の実を頬に溜め込んだリスかハムスターのようで可愛い。
愛嬌があって、ついつい弄り倒したくなる可愛さ。
困らせて、もっと怒らせたくなる。
この表情見たさに。


「では、聞こう。この景色を見て、どう思った?」
「それは……、あまりに綺麗で、ぼんやりと見惚れてしまいました。」
「なら、この部屋は?」
「とても豪華で、正直、私のような女官が立ち入るのはおこがましい気がします。でも、一度は泊まってみたい憧れのお部屋ですよね。広くて、綺麗で、景色が素敵で。」


なるほど。
ならば、俺の攻め方は間違ってはいない、と。


「では、最後に聞く。そんな豪華な部屋に男と二人きり。この状況をどう思う?」
「え……?」


ピタリと止まる表情、視線。
それまで部屋の中をキョロキョロ見回したり、自分の手元を見たりと、忙しなかったアリナーの瞳が、俺の顔の上で制止する。
真ん丸な瞳が揺れ動きながら、ただ俺だけを映して、俺だけを見ている。


「今夜、俺に抱かれるのは、嫌か?」
「っ?!」
「流石に心の準備が整わないか?」
「あ、当たり前です。こんな急な展開……。」


俺にとっては、急でも何でもなかったのだが……。
アリナーの言葉を借りれば、それこそ『降って湧いたような』誘いだった訳だ。
だが、ここまでの努力、今更、棒に振る気など俺には毛頭ない。


「俺の事は嫌いか?」
「いえ、あの……。嫌いであれば、そもそも食事のお誘いには乗りません。」
「それもそうだな。なら、俺の事は好きか?」
「それは、その……。」
「ハッキリ言ってくれなければ分からん。何せ俺は鈍いからな。」


色仕掛けはハッキリ言えば苦手なのだが、自分の気持ちを抑えるのは、もっと苦手だ。
しかも、今は程好く酔いが回っている。
この勢いで彼女を落とせなければ、この先、素面の状態で鈍いアリナーを口説き落とせる自信など、真っ正直な俺にはありはしない。
だから……。


伸ばした手を、スッと彼女の頬に滑らせた。
刹那、ブルリとアリナーの身体が震えたのが分かる。
感触は悪くない。
後は彼女を、その気にさせるだけだ。


「嫌いではないので、好きなのだと思います……。」
「なら、良いな。」
「え?」
「俺に抱かれても、良いな。」
「っ?!」


顔を真っ赤に染めたアリナーに軽い口付けを施し、抵抗される前に抱き上げる。
そのまま、これ見よがしに存在感を示すキングサイズの大きなベッドへと向かって足を進めれば、期待と不安に切なげな表情を浮かべた彼女が、ギュッと俺の首にしがみ付いてきた。



誕生日の夜に、最高のご褒美を



視界の片隅に煌く夜景が映る。
だが、俺の目には、どんな美しい景色よりも、アリナーの白い身体の方が、何千倍も輝いて見えた。



‐end‐





何故、この時期に誕生日ネタの続きを書いているのか、という突っ込みはナシの方向でお願いしますw
『静かな書庫〜』の続編は、前から書きたいと思ってたんですが、形になったのが今だったという訳で……(汗)

お誕生日の外食ディナーの後に、酔った振りをして、そのホテルの部屋に連れ込むという、ニャー君には有り得なさそうな策士っぷりですが、こんなリアも良いんじゃないかと。
最終的にニャー君に頂かれてしまう夢主女官ちゃん、結局のところ、彼女の気持ちがハッキリとしていないところがミソです(苦笑/更なる続編への伏線、かもしれないw)

2011.11.13



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