「アリナー、その箱は? 何だか、甘い匂いがする。」
「あ、これ?」


床に座り込んだ時に、脇へ置いた小さな箱。
そこから漂う甘い香りに気付いたらしいアイオリア。
甘党だもんね、美味しそうな匂いには敏感みたい。


「キャラメル、作ってみたんだ。味見してもらおうと思って。」
「俺は味見係か。という事は、本命が他にいるのか?」
「いる訳ないでしょ。知ってるクセに。でも、美味しく出来てたら、皆にもどうかなって。」
「ならば、俺が味見で、俺以外が本命か。」
「クドいわよ、アイオリア。真っ先に食べさせて貰える事を、光栄と思ってよね。」


多少、しつこいアイオリアの口を塞ぐために、箱から取り出したキャラメルを一切れ、彼の口の中へと押し込んだ。
生キャラメルと言った方が正しいと思われるソレは、指で摘んだだけでもフニャリと形が崩れ、直ぐに溶けてしまう。
口に入れた途端に蕩けるキャラメルの口当たりを予想していなかったであろうアイオリアは、少し驚いた顔をして、甘さの広がる口内に意識を集中させていた。


「……美味い。」
「えー、何? 聞こえないなぁ?」
「美味い、と言ったんだ。口の中であっと言う間に溶けて。でも、しっかりとキャラメルの味わいと、深い甘味は残って。クセになりそうだ。流石、アリナーだな。」
「良かった、嬉しい。実は私も、まだ味見してなくて。甘過ぎない? クドくない?」
「そうだな……。」


突然、腕をグッと引っ張られて傾く身体。
何が起こったのか分からないまま硬直していた私は、暫くしてからハッと息を呑む。
狭い視界に広がるのは端整なアイオリアの顔。
その閉じた瞼から伸びる睫が、頬に長い影を作っていた。
そう、私は彼の逞しい身体にスッポリと抱き締められて、しっとりじっくりと口付けられていたのだ。


「このくらいの甘さだ。甘過ぎなくて、クドくもないだろ。」
「や……、アイオリアっ?!」


唇が離れてから広がる、彼の柔らかな唇の感触。
絡んだ舌の熱さ、口移しで伝わる仄かな甘さ。
そして、後から後から次々と湧き上がるのは、身体の内側をムズムズと刺激する妙な擽ったさ。


「ば、バカッ! 折角、私が……。」
「ん? どうした、アリナー?」
「話を……、逸らしたって、いうのに……。」


無意識に蒸し返すなんて酷いよ、アイオリア。
そんなにも逞しく素敵な身体で、しかも、直に抱き締められたりしたら、どれだけ心を抑えようとも、身体は勝手に反応してしまう。


「す、スマン、アリナー。そういうつもりでは……。」
「分かってるわ、分かってる。でも……。」
「大切なんだ。アリナーが大切なんだ。だから……。」


私を深く思っているからこそ、簡単に抱いたりしたくない。
アイオリアらしいと思う。
思うからこそ、今まで何度も彼が欲しいと思う気持ちを心の底に抑え込んできた。


でもね、もう嫌なの、限界なの。
もっとアイオリアを感じさせて欲しい。
傍にいない時でも、私は貴方のものだという確かな証を刻んで欲しい。
愛しているという言葉では足りない、壊れる程の愛を直接、この身体へ伝えて欲しい。
そうじゃないと納得してくれないんです、ずっと待ち侘びている私の身体も心も。



触れなくちゃ伝わらないこと



私を抱き締めていた腕をパッと離して、アイオリアは少し身を引いた。
急速に身体から消えゆく熱が切なくて、苦しくて。
優しさなんていらないから私の全てを奪ってと、縋り付きたくて全身が震える。


何もないまま私を置いて逝ってしまった、あの悪夢のような時。
あの時の喪失感には、もう堪えられそうもない。
一度も触れ合わないままに、永遠の別れになるなんて、もう二度とゴメンだ。
そう思った刹那、唇に残ったキャラメルの甘味が、刹那、痛いまでの苦味に変わった。


好きって言って。
この身体から不安が抜けるまで、ずっと好きって言って下さい。



‐end‐



お題配布サイト:
「確かに恋だった」





ヒロインさんが大切過ぎて前へ踏み出せないリアと、それを理解しているんだけど、待たされ過ぎて痺れを切らしつつあるヒロインさん。
リアってば、焦らしの帝王になったかな?(しかも、無意識とかw)
きっと何か大きなきっかけがないと、リアはずっと踏み出せないままだと思います。
ヒロインさん、生殺しだ……;

2010.05.09



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