私だけのもの



久し振りに闘技場へと足を運んだ。
一歩、足を踏み入れた瞬間から聞こえる、地響きにも似た怒声と轟音。
石造りの急な階段を上り、太陽の光が眩しい観客席へと出ると、拓けた視界には、広い闘技場の様子が飛び込んでくる。
そこでは、ここのところ外地任務の多かったアイオリアが、後輩聖闘士や候補生相手に張り切って稽古をつけていた。


少し張り切り過ぎじゃないかしら?
格下相手にも気を抜かない、というか、気合いが入り捲くりなアイオリアの姿を見下ろしながら、私はクスッと笑う。
でも、それも仕方ない事なのかもしれない。


黄金聖闘士の中でも一・二位を争う実力と、誰よりも強い正義感。
彼は後輩達の憧れの聖闘士だ。
何より人種や年齢で差別をしないアイオリアは、幼い彼等に慕われている。


本当は後輩達を指導したり、世話をしたり、心配をしたり、そういう事が好きなのだろう。
だけど、過去、弟子を取る事も許されず、皆から遠巻きにされていた時期が長く続いていたから。
今、やっと思う存分、後輩達の指導が出来る喜びを味わっているのだと、そう思う。
黄金聖闘士でありながら、畏れ多さや厳格さはなく、誰よりも彼等に近い存在。
そう、彼等の兄貴分といったところかしら。


額に汗の粒をいっぱいに浮かべて声を張り上げるアイオリアは、普段、私の前では絶対に見せない厳しい顔付きをしている。
そんな凛々しく男らしい表情の彼に、また新たなトキメキを覚えながら、私は観客席の一角に席を取った。


それにしても……。


今日はヤケに見物人が多い気がする。
久し振りにココへ足を運んだから、最近の事は分からないけど、明らかに以前より人の数が多い。
しかも、「キャーキャー!」と黄色い声をひたすら上げている女性がいっぱいいる。
何、これ?


「あれ、アリナーは見てないのか? 今朝の『デイリー聖域』。」


見物人の多い理由を教えてくれたのは、悪戯っぽい笑みを浮かべたミロだった。
正午の休憩時間、アイオリアと連れ立って、観客席の私のところへと上がってきた彼は、持って来ていた新聞を手渡してくれる。


「そう言えば、今朝のは、まだ読んでなかったかも。」
「何か書いてあったのか?」
「読めば分かるよ。あ、ほら、そのページ。」


ミロが指を差したページで手を止めると、アイオリアと私は顔を並べて新聞を覗き込んだ。
そこに掲載された記事の横、アイオリアにそっくりな顔が身体中に汗を光らせ拳を突き出している。
だが、白黒写真といえど、それがアイオリアではない事くらいは、流石に分かる。
吃驚する程、似てはいても、それはアイオリアではなく、彼の兄であるアイオロスさんだった。



***



未来の教皇として、その地位が約束されている射手座の黄金聖闘士アイオロス様は、教皇補佐として忙しい日々を送りながら、それでも週に一回は必ず後輩達に稽古を付ける時間を取っている。
多忙なスケジュールを調整し、睡眠時間を削ってまで 後進達の育成に心血を注ぐアイオロス様。
伝い落ちる汗を逞しい筋肉に光らせ、爽やかな笑顔と凛々しくも厳しい表情を交互に浮かべ、聖域の未来を背負う者達を叱咤激励しながら指導する姿。
そんな彼を、後輩達は強い畏敬の気持ちも持って、羨望の眼差しを向けている……。



***



長々と書かれたアイオロスさんに関する記事。
内容自体は、多忙の中でも後輩指南を辞さない彼の姿勢を褒め称えてるだけのように読めるけど……。





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