星海浪漫



漆黒が広がる深い闇夜、キミの手を引いて海に来た。
新月だろうか、月はなかった。
雲はなく、星が瞬いていた。
だが、波音は一定の間隔をおいて耳に優しく届くのに、目の前の視界は、ただ何処までも真っ暗だった。


「何も見えない……。」
「まぁ、夜の海なんて、こんなもんだろうな。」
「知ってたの、アイオリア? だったら、教えてよ。」
「言ったところで、聞く耳持たないじゃないか、アリナーはいつも。」


せめて新月でなければ、もう少しマシだったのかもしれない。
真っ黒な海の色は、これ程に不気味ではなくて、波にゆらゆらと揺れる月の明かりは、絵画の世界のように美しかっただろう。


だが、それをあえてキミには告げずに、俺はその華奢な手を引く。
不思議そうに見上げてくるキミに小さく微笑み掛けると、フイッと下を向いてしまった。
気のせいか、その顔が赤く染まって見えた気がしたが、この暗闇の中だ、実際はどうだか分からない。
だから、知らぬ振りをして、そのままキミを砂浜に導く。


「悪い事ばかりではない。ほら、こうして……。」
「??」


腰を下ろした砂浜の上に、俺はゴロンと横になる。
あぁ、これは凄い。
視界いっぱいの満天の星空、今にも降ってきそうな星の群れ。
月がないからだろう、今夜、来て良かったと心から思う。


真っ黒な夜空との境目をなくした夜の海は、何処までも終わりの見えない深い闇でしかない。
その底知れぬ闇の色に、幼い頃は恐怖を覚えた事もあった。
だが、ホンの僅か、その視線をズラすだけ。
それだけで、恐ろしいばかりだった夜の海が、途端に二つとない宝石箱へと変わる事を教えてくれたのは、誰よりも頼れる兄さんだった。


「うわぁ、綺麗……。」


俺に倣って砂浜に寝転んだキミの唇から漏れた感嘆の声。
真正直な感想に、俺は嬉しくなって横にいるキミの方を向いた。
目を輝かせて星空を見つめているキミが、俺にとっては、この満天の星空よりも、ずっと大切な宝石だという事、気付いてくれているだろうか?
自然と浮ぶ微笑を隠しもせず、俺はキミに手を伸ばす。
砂浜に置かれた手を握っても、キミの視線はまだ星空に釘付けだった。





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