いつの間にか、ちゃっかり私の横に座っていたアイオロス。
彼があまりにも物欲しそうに、繁々と雑誌のフォンダンショコラを眺めているものだから、ついついと言うか、思わず提案してしまった。


「私も一度、作ってみたいと思っていたの、フォンダンショコラ。」
「これを?」
「そう。でも、女官棟の自室は簡易キッチンで、こんな本格的なものは、とてもじゃないけど作れないし……。」


そこで一旦、言葉を切る。
雑誌越しにチラリとアイオロスの方を上目遣いに眺めやれば、彼はキラキラした瞳を私に向けていた。


「なら、俺の宮のキッチンはどうだ? 十分に広いぞ、あまり使ってはいないが。」
「え、良いの?」
「勿論。その代わり、お裾分けは頂くけどね。」
「やった、ありがとう。アイオロス。」


この時点では、上手い事アイオロスを誘導して、人馬宮の広く立派なキッチンを使わせて貰える事に成功したと思い込んでいた。
でも実際、上手い事誘導されていたのは私の方だったんだ。
こんな状態になってから、やっと気付くなんて……。
ジッと私を見下ろすアイオロスの視線が熱い。


「あの、私が言ったのはフォンダンショコラの事で、これはちょっと意味が違うのだけど……。」
「そう? 俺にとっては、どっちも甘いお菓子に見えるけど。とっておきに甘い、ね。」


普段、執務中の彼にはみられない艶を含んだ笑顔。
ニッコリと笑ってみせているのに、何故かクラリとするくらい色っぽい。
駄目……。
こんな風に笑い掛けられたら、抵抗する気も失せてしまう。
顔が酷く熱いよ、熱でも出たみたいに。


「こんなに赤くなって。可愛い、アナベル。じゃあ、冷めてしまう前に、早く食べてしまわなきゃな。きっとトロトロに濃くて甘いんだろう。美味しそうだ。」
「やっ! ちょっと、アイオロス! 私はフォンダンショコラじゃな――、あぁっ!」


アイオロスがこんなにも巧みに事を運ぶなんて、思ってもみなかった。
私は彼の事、見誤っていたんだわ。
笑顔が爽やかで、明るくて太陽みたいで、皆に平等に優しくて。
そして、いつもトレーニングばかりしている、ちょっと男臭いイメージがあった。


でも、蓋を開けてみれば、そんなもの何処へやら。
彼の眼差しも表情も、息を呑む程に色っぽくて。
その笑顔だけで目眩がするなんて、どれだけ物凄いフェロモン醸し出してるワケ?
そんなセクシーな色気を至近距離で受けてしまい、私はもう既に力が入らなくなってる。


成す術もないとは、こういう事を言うのだろう。
抵抗するどころか、抵抗するための力、それ自体が入らない。
まるで自分の物ではないかのように動かない身体は、それなのに、触れられた箇所が普段以上に敏感に反応してしまう。


「うん、美味しい。この先はきっと、もっと蕩けてて甘いんだろ? もっとアナベルを味わいたい。」
「駄目、アイオロス……。これ以上は、もう……。」
「何言ってるんだ? これからがメインの時間なのに。」


悪戯っぽくウインクをして、子供みたいな表情のクセに、ドキッとするような色気がそこにあって。
鼻のてっぺんにチュッとキスが落とされたと思ったら、それを合図に深く熱い時間が始まりを告げた。



甘く熱い夜に、溶けてしまったのは私の方



アイオロスは蕩けるような甘さを感じているの?
彼の探る唇が、滑る手が、触れ合う肌が、熱くて熱くて。
その熱さに蕩けた私は、身体が蒸発して無くなってしまうのではないかとさえ思えた。



‐end‐





射手座スキー凪さん宅の五千打記念に書きました、暴走(エ)ロス兄さん。
熱々のフォンダンショコラを食した後で、ヒロインもパックンといっちゃいます^^
相変わらずの策士っぷりで、見事なまでの押し倒しで御座います。
暴走兄さん希望との事で、どこまでEROく書いて良いかが分からず、微妙なところで止めましたが、勿論、この後のEROは超絶濃厚ですともw

2009.02.05



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