「こっちの二つは、シフォンケーキか?」
「そう、予想以上に上手く焼けて、自分でも吃驚しちゃった。」


見た目だけでも分かるフワフワと柔らかなシフォンケーキは、本当に美味そうだった。
今直ぐにでも手に取って、口の中に放り込みたい気分になる。


「気のせいかな。何だか緑色してないか、これ?」
「これは抹茶のシフォンケーキだから。ほろっと苦味があって美味しいのよ。で、こっちは紅茶味。良い香りでしょ。」


アナベルがナイフを入れると、切れ目からは鮮やかな緑色をした生地がチラリと覗いた。
甘い匂いに混じって、仄かに香るグリーンティー独特の深い香り。
随分と珍しいものを作るのだなと、ケーキをカットするアナベルの横顔を見ていて、不意に思い出した。
そう言えば、彼女は日本生まれだったっけ。
ココで共に暮らし始めて、ずっと一緒に居たから、そんな事も忘れそうになっていた。


「抹茶、どうやって手に入れたんだ?」
「この前、青銅クン達が沙織ちゃんに会いに来た時があったでしょ。あの時、瞬クンがお土産にって、渡してくれたの。」
「へぇ、青銅の坊や達がね……。」


全く、いつの間に……。
まだまだ子供だからと気にも掛けずにいたが、こうなると、あいつらも危険だな。
危ないのは、他の黄金聖闘士だけではないという事か。
油断も隙もあったもんじゃない。


「あ、アイオロス。ちょっと嫉妬した?」
「ん? 何で、そう思う?」
「だって、眉毛がちょっとだけピクってなった。」
「良く見てるな、アナベル……。」


浮かんでくる苦笑いを誤魔化すため、切り分けられた抹茶のシフォンケーキをひと切れ手に取り、それに齧り付いた。
途端、口の中に広がる程好い甘さと適度な苦味。
どことなく上品で、それでいて薄過ぎない味と甘さ。
まさしく俺の好みの味に、頬が蕩け落ちそうになった。


「……美味い。」
「本当? 良かった〜!」
「これだけ美味く作れるなら、練習なんて必要なかったんじゃないのか?」
「でも、いきなり本番だと、失敗するかもしれないでしょ? だから、練習はしっかりしなきゃ。」


念には念を入れて、というところかな。
それが俺のためであるのだから、余計に嬉しくなって、空いていたもう一方の手をアナベルの腰に回し、グッと引き寄せた。





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