「珍しいのか、日本でも?」
「だって、まだ十一月よ。異常気象って言ってもおかしくないんじゃないかしら? 普通、雪が降るのって、クリスマスとか新年とか、そのくらいの時期でしょう?」
「へぇ、そうなのか……。」


ギリシャにいては、ほとんど見る事など出来ない雪だ、アイオロスにとっては相当に珍しいもの。
朝日を浴びて柔らかに輝く雪景色、真っ白な綿帽子を被った城戸邸の立派な庭を繁々と物珍しげに眺めていた彼が、感心してかパッと振り返る。
その表情は、いつものゆったりとした笑顔でありながらも、滅多にお目に掛かる事の出来ない雪を目の当たりにして、やはり少し興奮しているのが窺えた。


「やっぱり、外は寒いんだろうな? どう思う、アンディ?」
「そりゃあ、寒いでしょ。これだけ積もってて、溶ける気配もないし。」
「そうか……。寒い、か。」


この様子だと、外の気温は二度、三度ってところかしら。
もしかしたら、氷点下になっているかもしれない。
だとしたら、ありえないくらいの異常気象だわ。
そう考えると、暖かい部屋の中にいながら、ゾクッとした寒気に襲われて。
私はベッドの上に起こしていた上体を再び倒すと、いそいそと肩まで上掛けを引き上げた。


素肌を柔らかに包む羽根布団の、なんと暖かい事!
もう少しだけで良い、暖かな夢の世界を漂っていたい気分だわ。


――ガサガサ……。


「……。」
「おー、あったかい。」
「……アイオロス。」
「んー?」
「折角、起きたというのに、どうして、またベッドに入って来ちゃってるの?」
「ほら、何だか身体が寒くなってきたから……。」
「それが、下着一枚で窓辺に立っていた人の言う台詞?」


自業自得でしょ、寒くなって当たり前だわ。
幾ら部屋の中が暖かくたって、窓の近くは冷気に覆われている。
ガウンを羽織るとか、服をちゃんと身に着けるとかすれば良かったのに。
温かな上掛けをガサガサいわせて潜り込んでくるアイオロスの大きな身体を、私はワザと嫌な顔をして強く押し返した。


が、彼はベッドから出る気配もなく、それどころか、益々、身体を密着させてくる。


「アイオロス。」
「何、アンディ?」
「冷たい。」
「んー?」


押し返したところで退けてはくれない上、ビクとも動かないアイオロスの身体は、今や嫌がる私を捉えてガッチリと抱き竦めていた。
触れ合う身体、特に指先とか、踵とか、足先とか、身体の末端に近い部分は氷のように冷え切って、ポカポカに温まっている私の身体から、急速に熱を奪っていく。


「んー?」ですって?
そんなとぼけた声を返しても無駄よ。
貴方の狙っている事が『何』なのか、軽くお見通しなんだから。





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