本日の星占い



「はっくしゅんっ!!」


お昼休みの静かな執務室に、こだました豪快なクシャミの音。
私の真横に座っている人は、それに続いて、更にズルズルと鼻を啜った。


「あー、風邪引いたかな? 何だか寒気が……、ふぇっくしゅ!!」
「馬鹿な事を言うな、アイオロス。大方、何処かの誰かが噂の一つでもしているのだろう。お前に限って風邪など引かぬ。」


省エネのためにと、昼休みの間は照明の消された薄暗い執務室の中。
他の黄金聖闘士達が自宮や食堂へと食事に行ってしまった中、サガは左手にサンドイッチ、右手にペンと、書類を書く手を休めない。
一方のアイオロスはというと、私が持って来たお弁当を自分のデスクに広げて、のんびり食べているところだった。


「馬鹿は風邪引かないとでも言いたいのか、サガ? 悪いが、俺はリアと違って脳筋ではない。風邪ぐらい引くさ。」
「アイオロス……。何気に自分の弟をけなしているわよ。」


私はというと、アイオロスの隣の席から椅子を借り(多分、シュラの椅子かな?)、二人で一緒にお弁当を突っ付いているところ。
毎日の楽しみ、『デイリー聖域』を覗き込みながら、仲が良いんだか悪いんだか分からないアイオロスとサガの会話に、合いの手を入れる。


「誰もお前が馬鹿だなどとは言ってないぞ。私はただ、トレーニングと肉体改造が趣味であれば、風邪など引かんだろうと、そう言いたかっただけだ。」
「本当か? とても、そうは聞こえなかったが……。」


確かに、健康優良児も真っ青になるくらい、秋だろうと冬だろうと常に上半身が裸、しかも笑顔でトレーニングを続けているアイオロスだ。
イメージ的には風邪など引きそうにもないと思っちゃうけれど。


そう言えば、昨日の夜中、目を覚ました時。
アイオロスったら上掛けも蹴っ飛ばして、何も掛けないで寝ていたっけ。
「寝る前にひと運動しようか、アナベル。」とか何とか言っちゃって、いつもながらに、目一杯頑張っちゃったから、彼は暑かったのかもしれない。
だけど、結局は汗が引いた後に身体が冷えて、風邪を引いたんじゃないだろうか。
それが原因なら、自業自得と言って良い。


「兎に角、寒気がするもんはするんだよ……、は、は、はっくしゅ!!」
「くしゃみをする時は、ちゃんとハンカチで押さえてしろよ。周りに風邪菌が飛び散る。」


如何にも嫌そうな表情を向けて、そう言い放つサガ。
チラリとアイオロスを見やる、その鋭い視線で、本気で嫌がっているのがハッキリと見て取れる。
そして、そんなサガの視線を受けて、頬を引き攣らせるアイオロス。
見てて飽きない二人のやり取りを横目に、私は『デイリー聖域』に目を戻した。


「あ、これ……。」
「ん? どうした、アナベル?」


何気なく目を向けた新聞の隅っこ。
いつもの、お馴染みのアレ。
当たりそうで当たらない、当たらないようで当たる。
誰が作ってるのか良く分からない『星占い』のコーナー。


「本日の射手座。『体調がイマイチ、風邪を引く恐れあり、早めに帰宅しよう。』だって。」
「あー、やっぱり風邪か……。星占いにも、そう出てるんだ。風邪だよ、風邪。これは早く帰って、身体を休めなきゃ駄目だな。」


何でしょうか?
身体を休めるとか言いつつ、早く帰宅したらしたで、何かとアレコレ宜しくされるような気がしてならないのは、私の気のせいでしょうか?
そういうのは、身体を休めるとは言えない気がするんですけど、どうなんでしょうか、アイオロスさん。





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