「どうして、アナベルが泣くんだ?」


アイオロスの言葉に、私はただ首を振った。
自分でも分からなかったから。
その理由が、全く分からなかったから。


私の顔を覗き込むアイオロスは、困惑した表情で、でも、穏やかな表情は崩さなくて。
私なんかより、アイオロスの方がずっと苦しい。
この話を告げる事自体、きっと苦しいに違いないのに。


「弱ったな、どうしたら泣き止んでくれる?」
「分かん、ない……。」


拭っても拭っても零れ落ちる涙で視界は霞み、アイオロスの姿がぼやける。
私は俯いて、混乱する心を何とか落ち着かせようとしたが、どうしてかそれは上手くいかなかった。
止めどなく流れ込んでくる想いは、過去のアイオロスの心か?
それとも、この聖域を満たしている、聖闘士達全員の想いだろうか?
彼等が背負うものが、どれほどに重い物なのか、今、やっと少しだけ分かった気がした。


「すまない、アナベル。こんな話をした俺が悪かったよね。」
「ううん……。違う、の……。」


そっと回されたアイオロスの逞しい腕が、私の身体を優しく包み込む。
この腕で、数多の人を、この世の平和を守り続けてきたのだ、彼は。
そう思うと益々、胸が締め付けられた。


「私は、アイオロスの力にすら……、なれない、よね……。」
「そんな事はない。」


いつの間にか、身体は強くキツくアイオロスに抱き締められていて。
唇は、熱い彼の唇に触れ、一つに重なり合う。
その唇の熱さのせいか、流れ込むアルコールの香りのせいか。
それとも、混乱した思考と涙のせいか、口付けられた私は何も考えられなくなっていた。


そして、この夜、私はアイオロスに初めて抱かれた。
いつの間に、ベッドに移動したのかも覚えていないくらいボンヤリとしていた私は、身体が彼のものとなってやっと、アイオロスを深く想っていたのだと気付いた。


友人だと思って接していたけど、そうじゃなかった。
私はずっとアイオロスの事を、一人の男性として意識していたんだ。
聖闘士として生きる彼を、強い決意を抱いて戦う彼を。


何度も途切れそうになる意識の中、ぼやけた視界に映るのは、私の上で揺れるアイオロスと、その身体に走る大きな傷跡。
私は無意識に手を伸ばして、その傷に触れていた。
指を滑らせて傷跡を辿り、そうする事で彼の全てを感じ取りたくて。



ほんの少しでも良い、その想いを分かち合いたい



意識を取り戻したのは、真夜中過ぎ。
心地良い倦怠感を纏った身体は、アイオロスの逞しい腕と身体に包まれていた。


「何か、どさくさ紛れみたいになっちゃったな。ごめん、アナベル。」
「良いの。それより……。」
「あぁ、分かってる。好きだよ、アナベル。」


アイオロスが望むのなら、私は何度でも彼に抱かれよう。
少しでもその心が、癒されるのなら……。



‐end‐





シリアスな話でも、ロス兄さんは(エ)ロスですw
どさくさに紛れて、ヒロインを頂いちゃってますよ、この人;
何というか、意味不明な話ですよね、スミマセン、精進致します。

2008.12.14



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