十三年目の誕生日



正直、どうしてこんなに意地を張ってしまったのか、自分でも分からない。


でも、辛く苦しいばかりだった聖戦を終え、十三年振りに聖域へと戻って来た『彼』は、私の記憶の中に残る『彼』と、何ら変わりなかったからだと、気が付いてはいた。
勿論、彼は十四歳の少年のままではなく、きっちり十三だけ歳を取った二十七歳の青年になってはいた。
それでも、見た目的に殆ど変わらないのだもの。
十三年前の十四歳の時点で、既に大人と同等の姿形に成長を果たしていた人間離れした彼だからこそ、私はその余りの変わらなさに、酷く気後れしてしまったのだ。


十三年分、きっちりと歳を取った私は、昔と同じように彼の傍へと歩み寄れないでいた。
『大人になった』という言葉は、良い意味のように聞こえるけれど、実際はそうじゃない事を知っている。
大人になれば余計な知恵が付く、裏側の意味を知り、嘘に罪悪感を覚えない。
何と言うか、世俗に塗れて純粋な子供ではなくなった自分を、彼の瞳に映してしまうのが怖かったの。
だから、この数ヶ月、彼に必要以上に接近しないようにと、注意して避けて過ごしてきた。


でも、これじゃいけないって思い始めたのも、また彼のせいだ。
近付こうとする彼を上手く避けて、巧みに遠ざかって行く私を見送る、あの少し悲しげな表情。
罪悪感なんて、とっくの昔に感じなくなっていたと思っていたのに、この胸を締め付ける痛みはズキリと鋭い。


やっぱり、このままでは駄目。
ちゃんと彼と向き合おう。
その決意を行動に移すに至ったのは、彼の誕生日が数日後に迫っていたからだった。
昔のように彼をお祝いしたい。
何も深く考えずに、ただ幸せで楽しい気持ちだけを籠めて。


当日。
手作りのケーキを入れた箱を抱えて、人馬宮を訪ねた。
もしかしたら、もう他の誰かが彼を祝っているかもしれない。
今や黄金聖闘士で、聖域の本当の英雄で、教皇補佐でもあるアイオロス。
モテて当然、放っておく方がおかしいというもの。
もし、私より先に誰かがココにいたならば、ケーキだけ渡して帰ろう。
そう思いつつ、緊張で強張る手を振り上げて、入口の扉をノックした。


――コンコンッ!


静かな宮内に響く音は、今も昔も変わらない。
この重厚な扉は、低く深い音を響かせてきた。
プライベートルームの扉とはいえ、遥か古代から続く十二宮の付属品だもの。
その重みが違うのだろう。


「アナベルかい?」
「あ、はい。あの……。」
「鍵、掛かってないから、勝手に入ってきて良いよ。」


扉越し、少し離れたところから聞こえてくる声。
手が離せないのだろうか、勝手に入って来いだなんて。
でも、そういうフランクなところは昔と変わっていない。
そんな事に少しだけホッと息を零し、私は部屋の中へと入っていった。





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