「ココ、は?」
「巨蟹宮の上だ。」
「え?! 良いの、そんな場所に上って?!」
「宮主の俺が良いって言ってンだ。気にすンな。」


そう言うが早いか、デスマスクはその場にゴロンと寝そべった。
そこには、ご丁寧にもレジャーシートが敷かれていて、クッションまで用意されている。
もしかして、部屋にいなかったのは、ココで寝ていたからなの?


「おう。今夜は天気も良いし、あったけぇし、のんびり星を眺めるには最高だろ。」
「はあ……。」
「ぼんやりしてねぇで、オマエもソコ座れよ。遠慮すンな。」
「はあ……。」


どのみち彼を誘って散歩でもしようかなんて思ってたのだから、まあ良いかな。
なんて思いつつ、デスマスクの横に座る。
そのまま身体を倒して、彼と同じように寝そべった。


視界を遮る障害物のない空は、圧倒的な存在感で私の視界を覆って。
まるで今にも落ちてきそうな圧迫感すら与えてくる。
沢山の星を抱えた黒い夜空が上から迫りくる感覚に、息苦しさすら覚える程。


「凄い……。」
「だろ。星を見るのに、これ以上の場所はねぇな。アリアも、そう思わねえか?」
「思う。こんな凄い星空、初めて見たもの。」


七夕の夜に、こんな贅沢な星空を拝めるなんて。
プラネタリウムの人工的な美しさとは違う、本物の星空の美しさ。
織姫と彦星を隔てる天の川の星の密度を見れば見る程に、これでは確かに簡単には渡れないだろうと納得する。


「なあ、アリア。」
「ん、何?」
「今、俺がオマエを口説いたら、どうする?」
「え……?」


どうする? って聞かれても……。
思わず、マジマジとデスマスクの顔を見てしまった。
横に寝そべって星を見上げていた筈のデスマスクが、首をこちらに傾けて私を見ている。
暗闇の中、その紅い瞳がヤケに爛々と光って、目が合った瞬間、胸の奥がトクンと鳴った。


「それは、あの、デスマスクの気持ちによるって言うか、その……。」
「って、バーカ。本気にすンな。」
「は?!」


思わず起き上がってデスマスクを見下ろす。
寝そべったまま、お腹を抱えて笑う彼に唖然としたのも束の間、直ぐに沸々と沸き上がる怒りが、私の顔を真っ赤に染めた。


「か、からかったのね?!」
「当ったりめーだ。誰が好きこのんで、オマエみてぇな色気のねぇ女を口説くかよ。」
「色気がなくて悪かったわね!」


治まらない怒りに任せて立ち上がり掛けた時、強く手を握られ、引き寄せられる。
グラリ、傾く身体。
ハッとする暇もなく、全身を隈なく包まれた感触。
これは……、これはまさか?


「どうだ、アリア? 俺の腕に抱かれた感想は?」
「え、あ。え、ええっ?!」
「特別出血大サービスだぜ。今日は七夕だからな。」


抱き締める腕の力が、更に強くなる。
これは、本気?
それとも、冗談?
混乱する意識の中、目の前のデスマスクを見上げる。
その口の端に浮かんだ『ニヤリ』とした笑みに、再び視界がグラリと眩んだ。



天の川を渡る彦星のように、この距離を一気に縮めて



「……暑い。」
「あ? 何、オマエ。文句あンのか、アリア?」
「どうせなら、シュラとかアイオロスさんが良かった。素敵だし、格好良いし。」
「テメェな。七夕に黄泉比良坂巡りでもしてえのか、ゴラ。」
「私にだって選ぶ権利はあると思いますけど。」


でも、今夜は彼で良い、彼が良い。
それは決して口に出しては伝えないのだけれど……。



‐end‐





七夕から長く間が開きました、スミマセン;
書き始めたのは良いが、着地点が見い出せず、長く放置をかましました、蟹さまゴメンナサイ;
甘くもなく中途半端な感じに仕上がりましたが、これ以上の軌道修正は無理でした。
なので、この後の展開はお好きに想像して下さいませ。
ホットな夜でも良し、冗談として終わらせるも良し。
お好きな蟹さまを、どうぞv

2011.07.19



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