遥か遠く、波の音が聞こえて



毎日がこんな味気ないモンだなんて、いつの俺が知っていただろうか?
テキトーに働いて、テキトーに任務をこなして、気の向くままに女と遊んで。
それだけで十分満足だった俺の日常は、いつの間にか何の刺激も与えてはくれなくなっていた。


「そんな苛々して、見ているコッチが煩わしいよ。」
「そうだぞ、デスマスク。元はと言えば、お前が全て悪いのと言うのに。」


呆れた目で俺を見る悪友ドモの冷めた言葉。
俺が苛々してるだと?
俺が悪いって、どういう事だ?
まるで意味の分からねぇヤツ等の言葉に募る苛立ちに任せて詰め寄れば、嫌そうに顔を引き攣らせて背ける仕草に、ムカつく心がデカくなる。


「分かってるクセに、何故、私達に聞く?」
「は? 意味分かンねぇ。」
「分かっているだろ。アリアの事だ。」


――アリア。


シュラの口から零れた、その名前にビクリと身体が揺れた。
急に自分の意思が働かなくなって動きを止めた手は、咥えていた煙草に向かう途中で宙に留まった。
ポトリと、灰皿に落とされていた筈の灰が地面へと落下し、緑の草を熱く焦がす。
文句の一つも言えない植物は、ただ黙って一方的な暴力に耐え、俺は沈黙の中で突き刺すような悪友の視線に唇を噛んだ。


アリアが聖域を去ったのは、僅か一週間前の事。
「キミの態度がおかしくなったのも一週間前からだ。」と、ディーテの野郎に言われて、再び身体がビクリと揺れた。
なンでだよ。
意味分かンねぇよ。
俺の身体が意思に反して勝手に反応しちまう、その意味が。
そして、そんな俺に呆れた瞳を向けた後、ディーテとシュラが交わす意味あり気な視線も。


「イイ加減認めろ。お前は自分で自分を責めているのだろうが。」
「このまま時間が過ぎて、一番後悔するのはキミだと思うけどね、デスマスク。」
「うるせぇ、黙れ。この俺が、たかが女一人に何の後悔するってンだ。有り得ねぇ。」


勢い良く立ち上がった反動で、座っていた椅子が倒れる。
ガタンガタンとこだまする音が、苛立つ心をそのまま表してるように感じて、余計に腹が立った。


「帰るわ。」
「待て、デスマスク。」
「シュラ。放っておきなよ、少し。」


立ち去る背中に、追って来ようとするシュラの気配と、それを引き止めるディーテの声が響く。
それらを振り払うように足早に歩を進めて双魚宮を後にすれば、足は自然と、ある場所へと向かって行った。





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