ズル過ぎる告白



まだ明けきらぬ夜の静寂(シジマ)に響いた、カタンと微かな物音。
深い眠りの底から浮かび上がる意識、徐々に目覚めていく思考。
ゆっくりと目を開ければ、暗闇の中に僅かに動く人影が目に映った。


「……もう帰ンのかよ。」


最初はシルエットでしか見えなかった姿が、次第に闇に慣れていく視界の中でハッキリと捉えられていく。
俺の言葉に、アリアはぎこちなく笑って、だが、服を着る事は止めようとしなかった。


「デスマスク様、いつから……。」


起きてらしたのですかと、細く小さく囁かれたアリアの声は、微かでありながら夜明け前の静寂を抜けて部屋いっぱいに響く。
その事に戸惑ったのか、それとも、いつもは眠ったままの俺が珍しく目を覚ました事に困惑したのか。
眠る前に見た妖艶なまでの艶やかな表情はどこかに隠したまま、アリアは少し疲れた顔で肩を竦めた。


「まだ、イイだろ? も少し居ろよ。」
「分かってらっしゃるクセに。いつもの事でしょう?」


あぁ、そうだな。
夜が深く更けてからココに来て、ひとしきり楽しんで満足したら、夜明け前には必ず帰る。
それが俺達、いや、アリアが決めたルールだった。


別に付き合ってるワケじゃねぇ、ただお互いの快楽を貪り合うために選んだパートナーなら、他人の目に触れて下手な噂を立てられたくはないという、それがアリアのケジメだそうだ。
愛のない、ただの欲を満たすだけの行為なら、そこに余計な夢は見たくないと、以前にそう言っていたな。


まぁ、気持ちは分かる。
要は、必要以上に踏み込んで、心が揺れるのが怖いって事だろ?
人に知られたらどうとか、噂が立ったらどうのとか、それは全部、言い訳に過ぎない。
心が勝手に一線を踏み越えてしまわないための言い訳を、自分自身に押し付けてるだけだ。
それくらい、この俺が気付かねぇとでも思ってンのか、アリア?


「だったら、これは俺からの命令だ。今日は朝まで居ろ。なンだったら、昼まででもな。」
「そんなっ……。」


全ての衣服をキッチリと身に着け終わって、その場に立ち尽くすアリア。
裸のままベッドから跳ね起き、おもむろに近付いていく俺を、困惑した表情を貼り付けたままで凝視している。
目の前に立ちはだかった俺が、その柔らかな頬に手を伸ばして初めて、アリアはビクッと身体を震わせて、次いで驚いた顔をしてみせた。


「怖ぇか?」
「え……?」
「俺を本気で好きになっちまうのが、怖いンだろ?」
「っ?!」


頬を包んでいた手を滑らせて、首から鎖骨へと滑らかなアリアの肌を探った。
左の鎖骨のちょうど下、女官服に隠れてしまわぬその場所を、俺は何度か指で辿る。


「この痕な、さっき俺が付けといた。」
「えっ?! やっ、こんなトコに、困ります! 人が見たら……。」
「だから付けた。俺のモノだという所有の証をな。」


最初は快楽だけ貪りあってれば、ただそれで良かった。
身体の相性は最高で、他には何も必要ねぇ程な。
だから、恋愛なんて関係、面倒臭ぇだけだと。


だが、どういう心境の変化か。
コイツと一緒に居る内に、手離したくねぇと、そんな気持ちが強くなってる事に気付いた俺。


……あぁ、恋か。
まさかこの俺が、抱くためだけの女を好きになっちまうなんてな。


「だからよ。オマエは、ずっとココにいりゃ良いンだ。身体だけじゃねぇ、心も満たしてやっから、な?」



俺がお前を好きなんだ、お前も俺を好きになれ



「そんなっ、一方的です! 本気になるなよって、これは恋愛なんかじゃないって、そう言ったのは誰ですか?」
「……俺だな。」
「酷いです、今さら。酷い……。」


泣き出したアリアの肩をギュッと抱き締め、これまで出来なかった分、思いを籠めて強く抱き締めた。
イイぜ、好きなだけ泣けよ。
悪ぃのは俺だからな、この胸をオマエのためだけに貸してやる。


だが、泣き止んだら、その時は、遠慮なく本気の愛を交わそうぜ。
朝が来るまでココで眠ってたって良いンだからよ。
そう、今日からはな。



‐end‐





蟹誕という事で、蟹さまのSSを書き散らしてみました。
全コンプするのに予想以上に時間が掛かってしまいましたが、その分、蟹さまへの愛は籠めたつもりです。
蟹さまがやたらセ○ハラだけど、愛は籠めたつもり……。
てか、『横暴な彼のセリフ5題』と言うより、『セク○ラな彼のセリフ5題』と言った方が正しい気がする話ばかりでゴメンなさい;

来年の蟹誕までには、もっと素敵な蟹さんが書けるように精進したいと思います(笑)

2009.07.02



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