ドアを一枚隔てた先は、ざわめく店内とは、まるで違う空間だった。
薄暗く、飾りの少ないモダンでシンプルな店の雰囲気とは打って変わって、見るからにバックヤード、人に見られる事のない裏側といった様子。
今にも切れてしまいそうにチカチカと点滅する電気の灯りの下、ゴチャゴチャと物が乱雑する狭い廊下を抜けて、最奥のドアの前へと辿り着いた。


黒服の店員が乱暴にドアを叩く。
返事を待たずに開けられたドアの向こう、ある程度の広さを持った部屋の中に、『彼』がいた。


「連れてきましたよ。」
「よう、ご苦労さん。」


初めて聞いた筈の『彼』の声は、何故か耳に心地良く響く。
言葉遣いは乱暴なのに、クリアで良く透る声、滑舌の良い発音、滑らかな音。
その声に聞き惚れてしまい、呆然と立ち尽くしてしまうアリア。
そんな姿を見て、ニヤリ、その男は口元の笑みを深めた。


舞台上にいた時には抑えていたのだろうか。
今の彼の表情には、先程に比べてハッキリとした意思が見える。
艶めかしく色気を振り撒いている時との違いは、その視線、その意識が、アリアただ一人に向けられている事だった。
細められた紅い瞳と、口角が吊り上った独特の笑みは、美味しそうな御馳走を前に、幸せそうに微笑む美食家のようだ。


「なンだ? 間近で見る俺が、あまりに格好良過ぎて、魂抜かれちまったか?」
「な……。ち、違っ!」
「ムキになンなって。否定すりゃする程、説得力なくなるってモンだ。」


男は手にしていたドライヤーを近くの籠の中へと放り投げると、おもむろに立ち上がった。
濡れた髪を乾かしていたのだろう。
傍近くで見る彼の銀髪は、ガラス越しに見た時よりも、より一層、透き通って見えた。
まるで真っ白な絹糸のようだ、淡く繊細で、しなやかで柔らかい。
動作に合わせてフワリ、揺れる様を見ているだけで、その髪に触れてみたいと思う欲求が高まる。


「ちょっと待ってろ。」
「え……。」


丈の長いバスローブを着ていた彼は、身を屈めて、自身の足から何かをスルリと抜き取った。
それがショーの時に履いていた白いボクサーパンツだと、アリアが気付いた頃には、男は新しい下着を身に着け、勢い良くバスローブを脱ぎ捨てていた。


突然、目の前に露わになった彼の体躯。
筋骨隆々とした広い背中と、ギュッと締まった腰のライン、そして、張りのある筋肉に覆われた長い脚。
先程は、手を伸ばしても触れられない場所に、ガラスの向こう側にいた『彼』が、今、目の前にその立派な身体を晒しているのだ。
ゴクリ、アリアの喉が鳴る。
そして、その事に、背を向けていた彼も気付いていた。





- 3/5 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -