パリの夜の夢



薄暗い店内。
舞台の上、アクリルガラスに閉ざされた小さな空間だけが、何処となくエロティックな灯りに晒されている。


その小さな空間の中、おもむろに現れた男は、その異様な風貌だけでもハッと息を飲む程に人目を惹く。
流れる美しい銀の髪、真っ白な肌。
舞台を囲む人達を冷たく見下ろす瞳は、血を吸ったかのように紅い。
凍て付いた表情をしていながら、その赤い唇だけは、歪んだ弧を描いて斜めに吊り上っていた。
まるで彼を好奇の目で見つめる人達を、楽しげに見下しているかのようだ。
真っ白なボクサーパンツ一枚、他に隠すもののない堂々と晒された逞しい身体は、スポーツ選手、いや、格闘技選手か、プロの傭兵かと思える程に見事に鍛え上げられ、美しいとしか言いようのない流線で全身の筋肉をかたどっている。
そこに立っている姿を眺めているだけで、溜息の一つも零れ出てくる。
男は、そんな素晴らしい肉体をしていた。


――ザアアァァッ!


予告なく、その男の入った小さなブースの中に、シャワーの雨が降り注いだ。
だが、彼は瞬きもせず、微動だにする事もなく、その場に立ち尽くしていた。
その姿はまるで、シャワーの滴が伝うこの筋肉の美しさをジックリと堪能するが良い、そう言っているようにも見える。


不意に、熱い視線を送る客の中の一人と目が合った。
相手の喉が大きく隆起し、ハッと息を飲んだのが分かって、彼は歪んだ口元に、更にニヤリと笑みを浮かべた。
微かに動く男の口元。
だが、彼が何を言ったかなんて、聞こえる筈もない。
厚いアクリルガラスの壁と、激しいシャワーの音に阻まれ、声も吐息も溜息も、全てがシャットアウトされてしまう。
それなのに、目が合った相手には、その言葉がハッキリと届いていた。


「ほら、見ろよ。見てぇンだろ? 好きなだけ見ろ。俺の筋肉を、俺の濡れる肌を、俺の動きも視線も全部、好きなだけ、そこから見てろ。」


それまで、ただシャワーに打たれているだけだった彼が、ゆっくりと動き出す。
濡れた髪を掻き上げる艶めかしい仕草。
流れる滴に合わせて、自分の全身に手を這わす、扇情的な動き。
流し目、唇を這う舌、浮かんだままの挑発的な笑み。
ユラユラと揺れる腰の動きは、誘惑的でエロティック。
シャワーに濡れた白いボクサーパンツは、今にも透けて見えそうな際どさ。
打ち付けるお湯の雨に、濡れれば濡れる程に、増していく男性的な色気。


目が合ったまま、溜息が止まらない。
どうやら、あの視線一つで彼女――、アリアは見事に釣り上げられてしまった。
きっと、一夜の火遊びになると分かっているのに……。





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