悪魔な貴方



不思議だった。
誰よりも女好きで手が早そうに見えるデスが、私には何年間も手を出さなかった。
私が初めて男の人の身体を知ったのは、十八歳になって直ぐ。
デスと知り合ってから三年も経っていた。
一緒に暮らそうと言われて、このエトナ山の麓の家へと連れてこられ、その夜、初めて私を抱いたデスが、それはそれは優しかった事を痛い程に強く覚えている。


あれから四年。
愛しているとの言葉を信じ、私はずっとこの家でデスの帰りを待っているけれども。
昔のようには純粋に『恋』だの『愛』だのと浮かれる事はない。
冷めてしまったのとは違う、だけど、私は現実を知ってしまったのだ。


デスは私以外の女性の元にも、足繁く通っている。
聖域に詰めている事もあれば、任務で長期間、遠方の国に行っている事もある。
そんな勤めや任務の合間に、デスはお気に入りの女性と共に、目映い夜を何度となく越えているのだ。
そして、彼女達をその腕に抱き、色んな愛の言葉を囁いているのだろう。
私の耳元に「好きだ。」と言った、その同じ唇で。


ならば、私は何のためにココに居るのか。
デスの愛でる女性達と何ら変わらず、私もその一人であるというのなら、何も人里離れたこんな危険な場所に住み続ける必要なんてない。
聖域……、には別の女性が待っているのだろうから駄目だとしても、せめて同じシチリア島、人の多い街の中に住まわせてくれたって良いのに。
それをしないという事は、もしや、私はこの家を綺麗に保つためのハウスキーパーの役目を押し付けられているだけ、とか。
夜の相手も勤めてくれる、便利で美味しい家政婦さんとして。


「アホか、アリア。オマエがいなくても、こンなちっこい家くらい綺麗に保てる。つか、盟が一人いりゃ、それで十分だ。」
「なら、どうして……。」
「ココは……、俺のホームだからだよ。ホームだから、オマエに居て欲しい。」


デスにとっての唯一の家。
聖域とは違う、彼の、彼だけの居場所があるところ。
そんな大事な場所に居て良いのは私だけなのだと、デスはそう呟いた。


「家族だと思ってる。オマエは俺が唯一愛した……、愛してる女だからな、アリア。」
「ホント、に?」
「オマエ以外の女を抱く事はあっても、オマエ以外の女に愛を囁いた事はねぇよ。アテナに誓って。」


デスは、さっきから一向に私の顔を見ようとしない。
照れているのだ、きっと。
そんな仕草が返って、彼の本心を伝えているのだと感じさせられて、嬉しさに高鳴る胸が痛くなる。


「オマエ一人を愛でてやれねぇのは悪ぃと思ってる。だが、俺が愛してるのも、必要としてるのも、アリア、オマエだけだ。だからこそ、誰よりも大事にしてきた。」
「うん、分かってる……。」


切なくなるくらい、大切にされていた。
初めての時は、壊れものを抱くように繊細に、私を愛おしんでくれた。
それから、深く濃密な愛を、時間を掛けて教えてくれた。
きっと他の人が聞いたら「あのデスマスクが?」と驚く程に、優しく私を導いてくれた。


「俺は特殊な性質で、生まれながらにこンな力を持っちまってる。そのせいか、子を為せる可能性が極めて低い。だが、もし、こンな俺でも希望を持てるというなら、その子はオマエに産んで欲しい。そう願ってる、アリア。」
「え……?」
「俺の子を産むのはオマエだけだって、言ってンだ。」
「そんな……、私、で、良いの?」


答えの代わりにクシャッと髪を撫でられ、それから、強く抱き締められた。
嬉しくて、それでいて、心が混乱して、息が止まりそう。
私はデスのものでいて良いのだ。
一生、彼のものとして生きて良い。
そう思いながらも、心の中では「ごめんなさい。」と強く深く謝っていた。
彼を思う数多の女性達に届くようにと、何度も謝罪の言葉を繰り返していた。



悪魔な貴方に囚われた私



悪魔のような彼に魅入られた彼女達は、どんなに待ち焦がれても、私と同じ幸せは手に入れられない。
だからこそ、デスと過ごす夢幻(ユメマボロシ)のような夜を、彼女達から奪う権利など、私には有りはしないのだ。
だった一人、彼の心を独占する事を許されているのなら、彼のその身が何処にあろうと、誰を抱こうと、私は耐えなければいけないのだろう。
この先も、ずっと永遠に。



‐end‐





最後は恋人さん編で完結です。
恋人さんは、唯一デスさんの心を手に入れてはいても、だからこその深い苦悩があるんだよという話。
それもこれもデスさんの手癖(下半身癖?)が悪くさえなければ、問題にもならない悩みなんですがね(苦笑)
この後、十数年経って聖闘士を引退した後。
他の女性達との関係も断って、この恋人さんと二人、エトナの麓でワイン葡萄作って暮らす(でも時折、浮気をして怒られたりする)デスおじさんと奥さんってのが、理想だと思ってたりしますw

2013.07.18



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