「アデレイド、ほら。流れ星だ。」
「あ、ホントだ! 凄い!」


二人は黙ったまま、流れ落ちていく星を眺めていた。
刹那の時に、キラリと通り過ぎていった流れ星の軌跡が、まるで飛行機雲のように網膜に焼き付いて残っている。
その名残に浸りながら、二人は暫くの間、そのまま沈黙の中で寄り添っていた。


「……願い事はしたのか?」
「っ?!」


ハッと我に返るアデレイド。
サガの肩にもたれたまま、顎を上げて彼を見上げれば、目と目がバチリとぶつかり合った。
穏やかに見つめ返してくる彼の視界の中、アデレイドはパチパチと大きな瞬きを繰り返す。


「お願い事はしてないよ。」
「何故だ? こんな機会は滅多にないのだぞ?」


アデレイドはニッコリと笑ってみせると、再び前を向いて、サガの肩に頭を預けた。
ポスリ、サガが着込んでいた防寒着が息を吐き、頬を彼女の滑らかな髪がサラサラと擽る。


「だってね。あの流れ星には、燃え尽きる前に叶えなきゃいけない願いが沢山あるもの。そんなにいっぱいの願い事、託されるばかりじゃ可哀想でしょ?」
「そんな事を考えていたのか?」


サガは驚いていた。
願い事ばかりされる流れ星を可哀想だと、誰が思うだろうか?
アデレイドは、他の女性達とは、まるで違う考え方をする。
でも、だからこそ彼女に強く惹かれるのだと思った。



スッと伸びた身体。
身を捩った彼女が、サガの耳元に囁く。
切なさの籠った、その言葉は、とてもアデレイドらしい、優しさの籠った言葉だった。


「ねぇ、サガ。あの流れ星の願いは、誰が叶えるのかなぁ?」
「それは分からないな、誰にも……。」
「誰にも? サガでも分からないの?」
「あぁ。」
「アテナ様も?」


コクリ、頷く。
そして、そのまま沈黙の時が続いた。
だが、決して気まずくはない。
仄かに甘い時間が流れ、何処となく心がふわふわとして、幸せな気持ちになっていく。


「アデレイド、もし君があの流れ星だったら、何を願う?」
「私が……?」


唐突なサガの質問。
アデレイドは少しだけ首を傾げた。
考え込む彼女の瞳は真上、満天に輝く星々に注がれている。


「うん、やっぱりあれかな。双子座の傍で、流れる事なく輝けますように、かな。」


そして、大きく頷いて振り返るアデレイド。
キラキラと輝く瞳で、サガの顔を覗き込むと、同じ質問を返した。


「サガなら?」
「そうだな……。例え流れたとしても、燃え尽きる事なく、アデレイドの元に辿り着けますように、かな。」


サガの口元に浮かぶのは、穏やかで優しさに溢れた笑み。
彼はアデレイドの手を取ると、包み込むように握り締めた。
暗闇でも分かる程に、顔を赤く染めて手を握り返すアデレイドの愛らしい姿に、彼女に対する愛しさが、更に増していくのを感じる。


「大好き、サガ。」
「私もだ、アデレイド。」


彼女の与えてくれる真っ直ぐな愛情、これ以上ない幸せのひと時。
サガは同じだけ真っ直ぐな言葉をアデレイドの耳元に、そっと囁くと、その華奢な身体を強く抱き締めて、柔らかに唇を重ねた。



‐end‐





サガと甘々を書こうと思って出てきたのが、『星空』と『寒さに寄り添う』の二つでした。
ベタですねぇ、自分で書いておきながら;
でも、これ書きながら、脳内でサガとラブラブデートが出来たので満足ですw

当初:2007.03.29
加筆修正:2014.02.16



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