この星空は貴方と私の宝箱。
ふたりの願い
「……綺麗。」
「そうか。それは良かった。」
三月のまだ寒い夜、二つの影が寄り添って星空を見ていた。
吐く息は真っ白に変わり、白い肌は寒気に赤く染まる。
それでも、寄り添う二人の口元には穏やかな笑みが絶えなかった。
「久し振り、こんな満天の星空を見るの。」
「私もだ。最近は、ゆっくりと星見をする暇もなかったからな。」
口元に浮かんでいた笑みに、ほんのりと苦みが混じったのを見て、アデレイドは彼の頬を指でチョンっと小さく突いた。
今は、執務の事も任務の事も忘れていて欲しいと思ったからだ。
そんな彼女の意図を分かってか、サガはその笑みから苦さを消し去ると、キラキラと瞳を輝かせているアデレイドの肩を寒気から守るように抱き寄せた。
そっと、柔らかに。
「う〜ん……。」
「何を探している?」
夜空を見上げ、キョロキョロと見回すアデレイド。
そんな彼女の様子に気付き、サガはその横顔を見つめた。
零れ出る白い息を押さえるように、無意識に口元に当てられた指の華奢なラインと、愛らしい仕草。
何もかもが愛しい恋人。
「双子座、何処にあるのかなって。」
「ならば、上だ。」
サガは微笑み、真上を指差す。
その指先を追って見上げた先には、肉眼でもハッキリと捉える事の出来る星が二つ、キラキラと瞬いているのが見えた。
「やや明るいオレンジ色の星がポルックス、その隣がカストルだ。」
「仲良し双子の星、だったよね?」
サガは「あぁ。」と小さく答えて、深く頷く。
その青い瞳には、言葉に出来ない思いが浮かんで、夜の闇の中に滲んでいるように見えたのは、ただの思い込みだろうか。
いいや、違う。
それは思い込みじゃなく、サガの本当の気持ちなのだろう。
そう思ったアデレイドは、不器用な恋人の心を、やんわりと針で突く。
「サガとカノンも、もっと仲良くすれば良いのに。」
「……それは言ってくれるな。」
あからさまに渋い顔をするサガ。
その頬を再びプニッと突っ付き、アデレイドは嬉しそうにクスクスと笑った。
分かってはいても、思ってはいても、行動に、態度に出せない事など沢山ある。
特に、これまで衝突して、道を違い、背を向けあって、反目し続けてきた肉親と、そう簡単に割り切って向き合う事など出来やしない。
あの双子星のようになれるまでには、まだまだ時間が必要なのだ。
多分、アデレイドは分かっていてからかってくるのだろうが。
サガは小さく息を零してから、その話題を避けるように、再び黒く広い夜空を見上げた。
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