「ふいぃ。食った、食った。」
「ご馳走様でした。」


今夜は磨羯宮に泊まりになるという事もあって、珍しくデスマスク様が食事の用意を手伝ってくれた。
巨蟹宮に勤めていた頃には考えられない事だ。
あの頃は、扱き使われるだけ、たっぷりと使われ抜いたもの。
手伝うなんて言葉、雇い主だった彼の脳内には存在してなかった筈。
それが今は、私が女官という立場ではなくなったからか、以前に比べると格段に親切になった。
ただ単にお腹が減って、出来上がりを待っていられなかっただけの話かもしれないけれど。


「流石に今日は疲れたな。」
「ですね。」
「分かってンのか、テメェのせいだぞ?」
「ミャ?」


デスマスク様はテーブルの下にいたシュラ様の小さな身体を、足の爪先でポンと軽く小突いた。
食事の後、アイオリア様はリビングのソファーでスヤスヤと眠っていたが、やはり元気が有り余っているらしいシュラ様は、私達と一緒にダイニングへと移動して、テーブルの下をウロウロ歩き回っていた。
私の足首に擦り寄ったり、長い足を組んだデスマスク様の、ゆらゆら揺れる足先にじゃれ付いたり。
放っておいても何やら楽しそうに過ごしている。


「お、そうだ、アンヌ。風呂、借りてイイか?」
「はい、どうぞ。後片付けは私がしておくので、その間に使ってください。あ、湯船にお湯を張りますか?」
「いや、面倒臭ぇ。シャワーだけでイイ。つか、オマエ等、普段、湯船に浸かってンのか?」
「シュラ様は、ほぼシャワーですね。私もそうですが。」


私達には湯船に浸かる習慣が殆どない。
各宮のバスルームには、古代ローマを思わせる、それはそれは素晴らしい湯船が設置されているが、この磨羯宮の現状では、全く使われていない。
興味はあると言えばあるけれど、でも、なかなかお湯を張ろうという気にはならないのよね。


「折角、デカい湯船があンのに勿体ねぇな。タマには入りゃイイじゃねぇか。」
「シュラ様が浸かるのでしたら、お湯を張っても良いのですけど。私一人だけなら、ちょっと……。」
「シュラは、ああ見えて、かなりの面倒臭がりだしなぁ。ゆっくり風呂に入るなンて考えもしねぇンだろうな。」


そう言って、もう一度、彼の足に纏わり付いていたシュラ様の身体を軽く蹴って、デスマスク様は席を立つ。
シュラ様は「ミャー。」と一鳴きして、デスマスク様の後を追っていった。


「お、そういや、オマエ。さっき、テレビ台の下に潜り込んで、埃塗れになってやがったよな。」
「ミィ?」


そのままバスルームへと向かうのかと思いきや、ソファーの上で丸まっていたアイオリア様の前に屈み込んだデスマスク様。
その小さな頭をグリグリと撫でて、寝ていたアイオリア様を起こすと、問答無用に彼を小脇に抱え上げる。


「ミィッ?」
「デスマスク様、何を?」
「風呂だよ、風呂。このモコモコ野郎、かなり埃かぶってただろが。」


つまりは、お風呂で綺麗にして上げようという魂胆ですね。
実は綺麗好きで面倒見の良い、デスマスク様らしい発想だわ。
あ、だったら……。


「折角ですから、シュラ様も一緒にお願いします。」
「ん? あぁ、そうだな。オイ、シュラ。テメェも来い。」
「ミギャッ?」


名前を呼ばれて、シュラ様がビクリと反応した。
慌てて私の後ろへと回り込み、足首へと縋り付いてきたが、もう遅い。
伸びてきたデスマスク様の長い腕に掴まれて、彼はあっさりと摘み上げられていた。





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