4.対策会議



「ミャ、ミャン!」
「ミイィ!」


――バタバタ、グルグル!


「こら、二人共! ここで暴れてはいかん! 大事な書類もあるのだぞ!」
「まぁまぁ、サガ。そんなに怒るな。彼等はタダの猫じゃない。中身はシュラとリアだ。ちゃんと分かっているさ。」


やや焦った顔をして、走り回る彼等を目で追い駆けるサガ様と、暴れる彼等を気にも留めずに、サガ様を窘めるアイオロス様。
何だかお二人共、先生みたい。
しかも、飴と鞭な感じの。
明るく鷹揚なアイオロス先生と、しっかり者で頼れるサガ先生。
でも、本気で怒ったら、怖いのは間違いなくアイオロス先生の方よね。
きっとシュラ様達が子供の頃も、こんな感じだったのでしょうね。


「で、何処に行っていたのですか、デスマスク様?」
「あぁ、ちょっくら中庭にな。」


教皇宮の中庭?
そんなところに一体、何の用事があったのだろう。


「ションベンだよ。アイツ、ションベン我慢して震えてたンだ。」
「オシッコだと? デスマスクよ、神聖な教皇宮の中庭で何という事を!」
「しゃあねぇだろ。ココにゃ猫のトイレなンてねぇンだから。この場で、お漏らしされるよかマシだろ。」
「でも、良く分かりましたね。アイオリア様がオシッコ我慢していたなんて。」
「まぁ、そこンとこは男同士だからな。」


それでスッキリした今は、元気一杯になって、走り回っているという事ですか。
でも、中身がアイオリア様だから我慢が出来て良かったものの、これが本物の猫ちゃんだったら、その辺りでチャチャッとされていたかもしれないし、やっぱり猫のお世話は簡単じゃないって事よね。


「ミャン!」
「お?」
「む?」


そうこうしている内に、追い駆けっこに飽きたのか、猫ちゃん達がサガ様とアイオロス様の座るソファーに、ヒョイと飛び乗ってきた。
シュラ様は更に、アイオロス様の肩の上まで登り、左右の肩を行ったり来たりし始める。
一方のアイオリア様は、サガ様のフワフワ広がった髪の毛が、猫じゃらしのように見えてしまうのか、その逞しい膝の上に陣取り、両前足を使ってヒョイヒョイと長い髪にじゃれ付いている。


「ミ、ミィッ。」
「ミャ、ミャ。」
「こ、これは……。」
「可愛いなぁ。可愛い、可愛い! リアもシュラも食べてしまいたいぞ!」


どうしよう……。
アイオロス様のみならず、サガ様まで目尻が完全に下がってしまっている。
すっかり二匹の猫ちゃんの虜になってしまったようで、端整なお顔が崩れて大変な事に……。


「なぁ、アンヌ。今のコイツ等を激写した写真、デイリー聖域に持ち込ンだら、幾らで売れると思う?」
「そういう事を考えるのは止めてください、デスマスク様。」


と言いつつ、私も相当にお高く売れるだろうなんて思ってしまったけれど。
こんな貴重な瞬間、お目にかかれる人なんて、この聖域にはいないだろう、多分。
それを思えば、デイリー聖域の発行元としては大枚を叩いてでも購入したい筈。


「見ろよ。アイオロスはイイとして、サガの締まりのない緩み切った、あの顔。ありゃ、孫を愛でるお祖父ちゃんの域だぞ。」
「そ、そこまで酷くはないかと……。」
「いや、アレは酷ぇ。あンな顔、見ちまった日には、聖闘士の大半と候補生の全員が失望するぜ、間違いなく。」


でも、確かにメロッメロ(死語)状態なのですけどね、サガ様もアイオロス様も。
猫アイオリア様が髪に絡み付いても怒りもせず、それどころか、より一層、目尻を下げるサガ様を、私は呆れて見ているしかなかった。





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