ゆっくりと腕を上げたシュラ様が、水に濡れた手で、私の髪を掻き上げた。
掻き上げるというよりは、撫で付けると言う方が合っている。
水を含んで重くなった私の髪は、顔に頬に、ピッタリと張り付いていたから。


「心配した。沈んだまま浮き上がってこないから、本当に溺れたのかと……。」
「すみません。つい……。」
「つい?」
「プールの中の光景が、あまりに綺麗で、目を奪われてしまって。」
「全く……。アンヌらしい。」


ホッと息を吐くと同時に、小さな苦笑が口元に浮かぶ。
安心したような、それでいて呆れたような、そんな笑み。
こういう笑みも好き。
シュラ様の笑顔は、どんな笑い方でも多分に色気を含み、私はいつも見惚れてしまう。
きっと、彼にとって笑い顔は、他ではあまり見せない表情だからこそ、私はそれに惹かれてしまうのだろう。


不意に、髪に触れていたシュラ様の腕が下がり、頬を包み込んだ。
刹那、その腕が影となって、天井から差し込む光が途切れる。
それまで眩しい光で霞んでいた彼の表情が、ハッキリと目の前に現れ、心臓がトクンと大きな音を立てた。


頬から肩へ、肩から背中へ。
優しく優しく抱き締めてくる腕。
大きな身体にそっと包まれて、蕩けるような心地良さに全身が浸る。
それまで全力で泳いでいたためか、それとも温泉水のプールに長く浸かっていたためか。
ほんのりと温まった彼の肌は、深い陶酔へうっとりと私を誘(イザナ)った。


「アンヌ……。」
「んっ、シュラ様……。」


そうする事が当然であるかの如く、ゆっくりと重なる唇と唇。
深く貪る口付けではなく、重ねては離し、角度を変えて重ねては離し。
触れ合う唇の温度を、感触を、滑らかさを、感じ取って楽しむ、そんなキス。


夢心地でキスを繰り返すうち、触れ合う身体の温度が自然と上がっていった。
小さな水着一枚を隔てた向こう側、身体の奥底では抑え切れない熱が高まり、相手を渇望する欲が湧き上っていく。
それは動物としての本能なのか?
それとも、人としての感情の表れなのか?
いずれにしても、恍惚としたキスの効果と、温いプールの水温も相成って、シュラ様は私を、私はシュラ様を、どうしようもなく欲しくなってしまった。


「……アンヌ、我慢出来ない。」
「あ……。ま、待って。ココじゃ駄目、です。せめて……。」


せめて部屋に戻るまでは、持ち堪えて欲しい。
シュラ様の、そして、私の理性が。
流石に、こんな開放的な場所では、誰かに見られてしまうかもしれない。
二人共に切羽詰っていたが、ギリギリのところで残っていた最後の理性が、水着を脱がそうとする彼の手を押し止めた。





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