12.磨羯宮でも大暴れ



磨羯宮の昼下がり。
穏やかで静かな午後……、の筈なのに。
現実を見れば、部屋で暴走する猫ちゃん、もといシュラ様とアイオリア様。
呆れて見ているアフロディーテ様と、オロオロワタワタ焦る私。


「ミャー!」
「ミミー!」
「ちょっとお二人共! ストップ、ストッープッ!」


言う事を全く聞かない猫ちゃん二匹は、私の制止の声など無視で、部屋の中をグルグル駆け回っている。
ワタワタと追い駆けても、鈍足過ぎる私の足では追い着くどころか、ヨロヨロと転びそうになるばかり。
アフロディーテ様は呆れ返った様子で眺めているけれど、黙って立っていないで手を貸してください。
私じゃ、この悪餓鬼猫ちゃん達は捕まえられないのですから。


「そうは言っても、猫共もストレスが溜まっているみたいだしね。少しは発散させてやらなきゃ可哀想じゃないか。」
「でも……。」


何かしてしまってからでは遅いですから……。
と、言い掛けた瞬間の出来事だった。


ガッシャーン!!


大きな破壊音が響き、テーブルの方へと目を向けた。
すると、黒猫のシュラ様が何の悪びれた様子もなくそこから飛び降りて、再び駆け回っているではないか。
テーブルの上からは薔薇を活けていた大きな花瓶が落ち、石造りの固い床の上で粉々に割れていた。
しかも、花瓶は私がアテネ市街で買った量販品だったが、活けていた綺麗な薔薇の方は……。


「シュラ……。キミ、何て事をしてくれたんだい?」
「ミャッ?」


目にも止まらぬ速さで駆けていたシュラ様を、それ以上の速さ(これぞ光速)で捕まえたアフロディーテ様は、ムンズと首根っこを引っ掴んで自分の目の高さと同じ位置に黒猫ちゃんを吊し上げた。
ギリギリと鋭い視線で睨み付けるアフロディーテ様と、何も知らないといった風にトボけた顔をして対峙する黒猫ちゃん。


駄目です、無理ですよ、シュラ様。
アフロディーテ様に向かって『可愛い猫ちゃんの仕草』で小首を傾げてみせたって、騙されはしません。
猫ちゃんにメロメロになっている他の皆様とは違うのですから。
彼はサガ様やアイオロス様のように可愛さでは誤魔化せないのですから。


「ほう……。私に向かってトボける気かい? 良い度胸じゃないか、シュラ。」
「ミ、ミミャ……。」
「あれはね、私が精魂込めて育てた大事な薔薇なんだよ。アンヌが部屋に潤いが欲しい、大事に飾るのでどうしてもと言うから、一週間に一度、分けて上げていたんだ。それをキミは……。」


プルプルと震え出すアフロディーテ様の肩。
流石に、これはヤバいと思ったのか、トボけるのを止めるシュラ様。
不穏な空気を感じ取ったアイオリア様は駆け回るのを止め、私の足下にチョコンと座った。


皆の気持ちを無碍にするのは得意ですからね、シュラ様。
自己中で、あまり周りの人の事は考えませんから。
今まではそれでまかり通ってきましたけど、非力で無力な猫ちゃんの姿になっては、相手の怒りをスルーする事も、跳ね付ける事も、やり返す事も出来ませんもの。
これを良い機会と思って、少し御自分の身勝手な性格を多少なりとも治す努力をして欲しいものです。


「さぁ、覚悟は良いかい? キミのこの狭い額に白薔薇を……。」
「ミギャッ! ミミャミャミャミャッ!」
「食らえ、シュラ。ブラッディローズ!」
「ギギャギャッ!」


手足をバタつかせる黒猫ちゃんに右手を伸ばしたアフロディーテ様は、白薔薇ではなく人差し指を狭い額に押し付けてグリグリと抉った。
必殺技じゃないとはいえ、それなりに力を籠めた黄金聖闘士の額グリグリ攻撃に、激しく悶絶するシュラ様だった。





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