「あはは、ふふふ……。幸せだなぁ、俺。あはは……。」
『両手に花』ならぬ『両手にニャンコ』で、すっかり別世界へと旅立ってしまっているアイオロス様。
フニャフニャに崩れた笑みからは、普段の威圧感は綺麗サッパリ消えている。
目は全く開いてない糸目状態に見えるけれど、ただ単に瞼が物凄く腫れているだけなのだろうか。
「何だかもう完全にイッちゃってるね、あれ。」
「猫ちゃんが肩に乗ってからは、全くの廃人ですね。」
「疲れと睡眠不足だけでは、ああはならないだろう。恐るべし、新米神官。」
後でアイオロスに存在を消されなきゃ良いんだけどね。
なんて空恐ろしい事を呟くアフロディーテ様を見上げ、私は苦い笑みを零すしかない。
「ああ、あ〜……。幸せ、だ〜……。おや、す、グ〜……。」
「ミャッ?!」
「ミミッ?!」
「わ、アイオロス様っ?! そんなところで寝てしまっては駄目ですよ!」
と言ったところで、時既に遅し。
アイオロス様は猫ちゃんを両腕にシッカリと抱いたまま、ソファーの上に倒れるように突っ伏して、そのまま眠りに落ちてしまった。
「ミミャッ!」
「ミイイッ!」
重い!
苦しい!
アイオロス様の立派な肩の下敷きになり、猫ちゃん達が悲鳴を上げる。
退けろと言わんばかりに、前足でベチベチと頬や頭に肉球パンチを繰り出すが、ビクともしないどころか、ピクリとも動かない。
ジタバタともがきにもがいてアイオロス様の下から這い出ると、猫ちゃん達は「プハァッ!」と大きな息を吐いた。
「こんな寝難いリビングのソファーではなくて、客用寝室のベッドが空いていましたのに。」
「寝ちゃったものは寝ちゃったんだから仕方ないさ。このまま寝かせておこうよ、アンヌ。」
「ミャッ。」
緩んだ笑顔のままで寝落ちたアイオロス様の眉間に、シュラ様が肉球をギューッと押し付けてみるが、それでも起きる気配がない。
相当に疲れていたんですね。
ならば、そっとしておきましょう。
「アフロディーテ様。もう少ししたら、猫ちゃん達とお留守番をお願い出来ますか?」
「留守番? 何処かへお出掛けかい?」
「教皇宮に差し入れを持っていこうかと思いまして。サンドイッチでも作って。シュラ様とアイオリア様がこのような状態で、迷惑を掛けていますから。」
迷惑を掛けているのはキミではなく、コイツ等だろう?
そう言って、アフロディーテ様は溜息を吐いた。
それと同時、眠るアイオロス様の顔を突っ付いてみたりと悪戯を繰り返していた猫ちゃん達がソファーから飛び降り、私の足下にじゃれ付き始めた。
「ミャ、ミャン。」
「ミ、ミミィッ。」
「どうやらキミと一緒に行きたいって言ってるようだよ、アンヌ。」
ええっ?!
それは流石に危ないですよ?
お二人が猫化した事は極秘事項。
黄金聖闘士以外には、神官長にすら伝わっていない筈。
正体が知れてしまえば、この聖域は大パニックになりかねない。
「バレなきゃ良いんだろう? 私も一緒に行くよ。光速でパーッと教皇宮の執務室まで行って、パーッと帰って来ちゃえば、誰の目にも止まらないだろうし。」
「でも、アイオロス様を、このままココに置いていくのは……。」
と、それまで興味なさげに寛いで座っていたカプリコちゃんが、アイオロス様の眠るソファーへと近付き、ヒョイと飛び乗った。
そして、そのまま彼の大きな背中の上で、クルリと丸まって寝転んでしまった。
「カプリコちゃん、アイオロス様とお留守番するつもりなの?」
「ミャーン。」
「だそうだよ。番犬ならぬ番猫がいるんだから、大丈夫さ。」
気の利く猫ちゃんに感謝ね。
キッチンに向かった私は、急いでサンドイッチを作り、差し入れの用意を進めた。
→第11話へ続く