10.変わらぬ現実



チチチチチ……。


遠くに聞こえる鳥の声。
瞼を閉じていても分かる程の明るい朝の日差しが、私の顔を照らしている感覚。
心地良い朝の目覚め……、の筈だが、私は身体がズシリと重い事に、起きる前から気が付いていた。
猫ちゃん達のお世話で、そんなにも疲れてしまっていたのかしら。
それとも寝不足か。
そんな事を考えながら、ゆっくりと瞼を開く。


「……ミャッ。」
「…………。」


身体が重い理由が分かった。
疲れていた訳でも、睡眠が足りない訳でもなかった。
ズッシリと重い黒猫ちゃんが、寝そべる私の上に乗っていたのだ。
胸からお腹に掛けてドッシリと。


私は寝転んだまま、首だけを小さく上げて猫ちゃんを見た。
目の前にアップで映る姿は、ピンと尖った耳に金色の瞳、ふてぶてしい無表情。
カプリコちゃんと似ているが、カプリコちゃんではない。


「……シュラ様、ですか。」
「ミャッ。」
「それでは、まだ猫ちゃんのままなんですね。」
「ミャン。」


猫ちゃんを乗せたまま上半身を起き上がらせて、大きな溜息。
起き上がると同時にズルズルと滑り落ちたシュラ様は、そのまま膝の上に座り込んで、スリスリと顔を擦り付けてくる。
く、擽ったいです……。


「アイオリア様は……?」
「ミャッ。」


シュラ様が首を向けた方を見ると、寝室のドアの近くで床の上をゴロゴロと転がる猫ちゃんが居た。
あの金色のモコモコの毛並みは、間違いなくアイオリア様だ。
そうですか、朝には元の姿に戻っていると思っていたのだけれど、予想は見事に外れてしまいましたか。
そして、もう一度、大きな溜息を吐く私。


「シャワー浴びてきます。」
「ミャッ。」
「駄目ですよ、シュラ様。」
「ミャッ?」


シャワー室へと向かう私の足首に纏わり付く黒猫姿のシュラ様。
猫ちゃんは水が嫌いな筈なのに、このムッツリさんは一緒にシャワーに入る気でいるのだ。
呆れの溜息を吐きつつ、昨日の朝と全く同じ遣り取りで猫ちゃんを部屋に押し戻し、私はシャワーへと向かった。


「……さて、行きましょうか。」
「ミー。」
「ミャッ。」


シャワーを浴び終え、着替えと、軽くメイクもして、身支度を整えた私。
右手にシュラ様、左手にアイオリア様を抱えて寝室を出る。
向かった先は、アフロディーテ様が休んでいる客用寝室だ。
ノックをしても返事がないので、遠慮なくドアを開けて中を覗き込んだ。


「……アフロディーテ様。起きてらっしゃいますか?」
「ミャーン。」


返事はないが、ベッドが大きく盛り上がっている。
その足元には、シュラ様そっくりの黒猫ちゃんが丸くなって眠っているのが見えた。
そういえば、アフロディーテ様は一度寝てしまうと簡単には起きないんだったわ。
シュラ様といい、寝付きも良くて、眠りも深いだなんて、黄金聖闘士としてどうなのでしょうか。


「仕方ないですね。シュラ様、アイオリア様。お願いします。」
「ミャー。」
「ミミー。」


了解の鳴き声を上げて私の腕の中から飛び出していく猫ちゃん二匹。
まるで猫弾丸ですね、威力も十分です。


「ミミャー!」
「ミミッ!」


ガシガシ、ゲシゲシ!
ワシャワシャ!


飛び乗って、跳ねて、掻き毟って、潜って、猫パンチを繰り出して。
遣りたい放題に暴れ捲る猫ちゃんに、流石のアフロディーテ様も夢の世界から引き戻されたようで。
非常に気怠げにモゾモゾと起き上がった彼は、物凄く不機嫌な顔をして眉を顰めた。
そのまま暫くボーッとした後、自分の上で跳ね回る猫ちゃんを、それまでの怠い様子とは裏腹に、目にも止まらぬ素早さで、サッと両手に捕まえてしまった。





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