7.まさかの脱走劇



後ろ髪を引かれながら、何度も振り返り振り返り、だからなのか、さっぱり前に足が進まないサガ様。
そんなに戻るのが嫌なのですか、溜息まで吐いちゃっていますけど。


「ミャミッ!」
「はい? 何ですか、シュラ様?」
「ミミャ、ミャミャミャン! ミャー!」
「何だ、シュラ? 外に出たいのか?」
「ミャン!」


わ、吃驚した!
さ、サガ様、やっと出口近くまで足が進んでいたのに、戻ってきたのですか?!
シュラ様が何かミャンミャン鳴いているってだけで、戻ってきちゃったのですか?!


「どうして外に出たいと分かるのですか?」
「いや、言っているだろう、明らかに。聞けば分かる。」
「分かりません。猫語なので分かりません。」
「分からぬ訳はない。なぁ、シュラ。」
「ミャーン!」


どうやって鳴き声の意味を理解したのかは分かりませんが、どうやら外に出たいというのは間違っていないらしい。
でも、外に出すのは危険過ぎる。
この人、いや、この猫。
好き勝手に暴走するし、脱走しようとするし、駄目だと言っても聞かないし。
正直、飛び出していって、そのまま行方不明になったりして、聖域中を巻き込んでの大騒ぎになりそう。
ただでさえ、猫化した時点で大騒ぎだというのに、これ以上の迷惑を掛けるのは、ちょっとどうかと……。


「私が居れば大丈夫だろう。逃げ出す気配を感じたら、即行で捕まえてくれる。」
「いえ、あの、サガ様は教皇宮に戻らなければならないのでは……。」
「少しくらいなら平気だ。」
「平気ではないと思いますけど。それに猫になったシュラ様は侮れないですよ。速いですよ、物凄く。」
「例え黄金聖闘士だろうと、猫には負けぬ。いざとなればアナザーディメンションで空間を開けば……。」


いやいやいや!
それ、一番やってはいけない事でしょう!
黄金聖闘士だろうと猫の姿である限り、別空間に飛ばされなどしたら、もう二度と戻って来られなくなっちゃう。


「危うくなれば、黄金一のスピードを誇るアイオリアを呼べば良い。」
「無理です。アイオリア様も今、猫になっています。」
「む、そうだったな。ならば、アイオロスに何とかしてもらおう。」
「アイオロス様が追い駆けてきたら、より全力で逃げると思いますよ、シュラ様。火に油を注ぐようなものです。」


猫シュラ様の可愛さに、現実が全く見えなくなっていませんか、サガ様?
そんなにシュラ様の我が儘を聞きたいんですか?
甘やかすのが好きなのですか?


「すまぬ、アンヌ。普段、皆に厳しい事ばかりをグチグチ言っているせいか、可愛い子供達やペットを見ると、目一杯、甘やかしたくなるのだ。」
「はぁ……。分かりました、少しだけですよ。シュラ様も良いですね?」
「ミャーン。」


サガ様のお見送りついでに、磨羯宮の外へと出た。
腕の中のシュラ様はソワソワとしていて、見慣れた十二宮の景色をキョロキョロと顔を左右に振って眺めている。
見上げるこの階段を少しだけ駆け上がる程度、そのくらいで満足してくれれば良いのですけれど。
お願いですから、脱走とか、逃走とか、光速ダッシュとか、人に迷惑を掛ける行為はしないようにしてくださいね、シュラ様。
そう強く願いながら、そっと階段の一番下にシュラ様を降ろしたのだった。





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