「……あれ? シュラ様?」
「ミャッ?」
「いえ、『ミャッ?』じゃなくてですね……。」


アイオリア様の居る箱に無理矢理入り込んだかと思えば、そのまま中に収まって、腰を落ち着かせてしまった。
いやいやいや、何しているんですか、シュラ様。
ノンビリするために、そこに入り込んだわけじゃないでしょう、シュラ様。


そうして見ていれば、クワワッと大きな欠伸を零して目を細めているし。
全然、聞いていないわね、この人、いや、この猫ちゃんは。
その横で、アイオリア様は迷惑極まりないといった様子で渋い顔をしている。
それが証拠に狭い場所で少しでも距離を開けたいのか、細い前足でシュラ様の顔をグイグイと押し退けてみたり。
まぁ、一方のシュラ様は、それすらも全く気にしてない様子ですけれども。


「シュラ様。一体、何をするために、そこに入ったんですか?」
「ミャッ?」
「アイオリア様の気分を落ち着かせるためじゃなかったんですか? まさか単に自分が入りたかっただけですか?」
「ミャーン。」


それが返事ですか、そうですか。
アイオリア様の事は関係なく、自分がそうしたかっただけとは、何という自分勝手。
いえ、元よりシュラ様は自己中で他人の意見なんて全く聞かない人ですけどね。
猫ちゃんになって、それがより顕著になった気がします。


「とはいえ、アイオリア様の気が逸れたみたいで良かったです。とってもイヤ〜な顔をしていますけど。」
「ミイィィ……。」
「本当に迷惑なシュラ様ですよね。こんな狭いところに無理矢理入ってきて。」
「ミイィ。」


そんな遣り取りも耳に届いている筈だが、シュラ様は何処吹く風で、未だノンビリした様子で目を細めている。
そりゃあ、猫ちゃんは狭いところに密集したがる傾向がありますけど。
床に置いた段ボール箱の中に、何匹もミッチリと入り込んだりしますけど。
だからといって、この状況でそういう事をしますか、普通?


「さ、アイオリア様。こちらへどうぞ。そんな自分勝手な人(いや猫か)は放っておいて、出てらっしゃい。」
「ミイィィ。」


余程、シュラ様と密着しているのが嫌だったのか。
それとも、暑苦しくて迷惑だったのか。
もしくは、デリカシーのないシュラ様の態度が迷惑だったのか。
今度は素直に私の言葉を聞いて、躊躇わずに箱から出てきたアイオリア様。
そのスリムな見た目とは裏腹に、ムッチリドッシリした猫ちゃんの身体を両手でシッカリと受け止めると、箱の中で寛いでいるシュラ様は放置して、ソファーの方へと戻った。
目の前では、アイオロス様とデスマスク様の低レベルな口論が、未だに続いている。
本当にもう、この人達ときたら、朝だろうと昼だろうと、いつでも騒々しいのだから。


「むっ? アイオリア、いつの間に出てきたんだ?」
「ミッ?! ミイィィィ……。」


だが、流石に目敏いアイオロス様は、私がアイオリア様を抱っこしている事に気が付いた模様。
その人を圧倒する勢いを、デスマスク様から私の方へと向けて、今にも突進してきそうな様子で足を踏み出した。
が、それを許しては、またアイオリア様が元の箱の中へと戻ってしまう。
現にアイオリア様はシッカリと私にしがみつき、身を震わせているのだから。


「駄目ですよ、アイオロス様! それ以上、近付いてはいけません!」
「何故?」
「アイオリア様が怯えています。教皇補佐ともあろう人が、小さな可愛い猫ちゃんを怖がらせるようじゃ、色々と問題アリなんじゃないですか?」
「うっ……。」
「全くだぜ。ったく、この問題児が……。」


以前、猫化した時にも、怯えがちなアイオリア様には優しく接するのが大事だと、ミッチリ教えた筈なのに。
すっかり理性が飛んでしまっている、この破天荒な聖域の英雄の行動には、溜息を抑え切れないデスマスク様と私だった。



→第3話へ続く


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