闇のリズム的にゃんぱにな山羊誕



今日はシュラ様のお誕生日だ。
だからといって、仕事が休みになる訳でもなく、いつもと同じように彼は教皇宮へと出掛けていった。
本日のシュラ様は、朝から執務の当番だ。


私はというと、シュラ様と同じで、いつもと変わりなく、朝から家事仕事をこなしている。
ただし、いつもよりも豪勢な、シュラ様の好きなものばかりを詰めたランチボックスを作って、彼に持たせた事だけが、誕生日の『特別』といえるだろうか。
書類が山積で、ランチにも戻ってこられないのは残念だったけれど、たまには愛情をいっぱい籠めてお弁当を作るというのも悪くない。
彼がどんな顔をして開き、どんな顔をして食べているのか、それを想像するのも、また楽しかった。


が、予想外の事というのは、意外な時に起こるもので。
浴室の掃除を終えて、冷えた指先を擦りながらリビングへと戻ってきた私の視線に飛び込んできたもの。
それに視線は釘付けになった。


「ミャーン。」


リビングの中央に置かれた革張りのソファー。
その真ん中に『猫』がいた。
真っ黒で艶々した短い毛足、ピンと尖った耳、切れ長の鋭い瞳、スラリとしなやかな身体のライン。


はっ?!
こ、これはもしや……。


「し、シュラ様?! シュラ様、またもや猫になってしまったのですかっ?!」
「ンな訳あるかよ。」


パコーンという鋭い音と同時に、後頭部に走る鈍い痛み。
痛む頭を押さえながら、聞き慣れた声だと思い、背後を振り返れば、予想通りの人が、予想通りの表情をして、私を見下ろしていた。


「な、何をなさるのですか、デスマスク様!」
「オマエが阿呆な事、抜かしてるからだろ、アンヌ。」
「だって、この子。黒猫姿のシュラ様にソックリなんですもの。」
「オマエの目は節穴か? いつも自分が可愛がってる猫の事すら忘れちまったってのかよ、薄情な女だな。」


言われて、ハッとする。
ミャオンと鳴きながら、身体を擦り寄せてくる猫ちゃんを抱き上げ、お腹の下のその部分を確認。
うん……、雌だ。


「もしかして、カプリコちゃん?」
「ミャーン。」


名前を呼ぶと、嬉しそうに始まるスリスリ攻撃。
間違いない、この黒猫はカプリコちゃん。
アイオリア様が飼っている猫だ。
元は野良猫だったが、獅子宮の居心地が余程良かったのか、勝手に入り込んで、そのまま居着いてしまった。
その見た目が、猫になった時のシュラ様にソックリだったために、『カプリコ』ちゃんと命名。
名前を付ける際、シュラ様は勿論、反対した。
この名前が定着した今でも、反対している。


「ミャーン。」
「わっ、擽ったい! そんなに頭を擦り付けないで!」
「つか、コイツ。雌のクセに、こういうトコまで、シュラの野郎にソックリとはな。」


抱き上げたカプリコちゃんは、幸せそうに目を細め、女官服に覆われていない肌が剥き出しの、私の首から胸にかけて、つまりはデコルテに、これでもかと頭を擦り付けてくる。
艶々の短い毛足は上質の絨毯のようで、気持ち良いやら、擽ったいやら……。


「で、どうして、この子が磨羯宮に?」
「任務で暫く宮を開けるから、預かってくれって、アイオリアがなぁ。だが、俺の宮の猫が、どうにもコイツと仲悪ぃみてぇで。目ぇ離した隙に喧嘩おっ始めるンで、仕方なくココに連れてきた。」
「そうですか……。確かに、デスマスク様のところの白猫ちゃんは、少し気性が激しいですものね。」


聞けば、アイオリア様の任務は五日間程度らしい。
そのくらいだったら、預かっても支障はないとは思う。
寧ろ、私は嬉しいくらいなのだけれども。


ただ、シュラ様が……、良い顔をしないだろう。
ココで猫を飼う事すらも、猛反対だったくらいだから。


「ンじゃ、頼むわ、アンヌ。」
「あっ! ちょっと、デスマスク様っ!」


断る隙もなく、行ってしまった。
仕方ない、ホンの数日間の事だし、シュラ様には我慢してもらおう。
小さく溜息を吐き、抱っこしたままだった猫ちゃんの頭をグリグリと撫でる。
すると、気持ち良さそうに目を細めた表情が可愛くて、私は思わず、その柔らかな頬にキスを落とした。





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