「暇……、ですねぇ。」
「おう、暇だな。」


正直、ただ時間が経つのを待つだけというのは辛い。
しかも、何をするでもなく、この二匹の猫ちゃんの相手をするだけ。
まぁ、相手をしながら、様子や行動を監視するというのが一番の目的なのだけれど。
それにしたって、何もする事がないというのは、本当に苦痛だ。
唯一の救いは、可愛い猫ちゃん達は見ていて飽きないという事くらいだろう。


「ミャミャ。」
「ミ、ミィ。」


シュラ様とアイオリア様は、気儘に部屋の中を徘徊し、あっちへ登り、こっちへ飛び降りを繰り返している。
かと思えば、テーブルの上でグースカと寝ていたり。
そして、今は私の膝を挟んで右と左に陣取り、何やら腕を伸ばして猫パンチを繰り出し合っていた。
ミャンミャン言いながら、相手の頭や顔を叩いたり、小突いたり。
本人(本猫?)達にしてみれば真剣なパンチの繰り出し合いなのかもしれないけれど、見ている側としては、可愛いじゃれ合いに心和む光景だ。


「……ネコ競り合い、だな。」
「はい?」
「いや、何となく浮かンだだけだ。スマン、忘れてくれ。」
「ネコ競り合い……。」
「だから、忘れろっつってンだろ。」


視線を落とすと、左右に小さな猫の頭が二つと、伸びては引っ込むを繰り返す、しなやかな前足が映る。
未だ私の膝を挟んでパンチの応報を続ける猫ちゃんの頭を、二匹同時にポムポムと撫でた。
すると、ピタリとパンチを繰り出す前足が止まる。


「……小競り合いの原因は?」
「あ?」
「ですから、猫ちゃん達が小競り合いをする原因は、何なのでしょう?」


私がそう言うと、デスマスク様の口から呆れの溜息が漏れた。
しかも、深い深い溜息。
思い切り馬鹿にされているようで、少しだけムッとしてしまう。


「何ですか、その溜息は?」
「いや、だってオマエ。鈍いにも程があンだろ。ただの猫が猫パンチで殴り合ってるってンなら、じゃれ合ってるだけで済むが、ソイツ等、中身はシュラとアイオリアだろ。つー事は、小競り合いの原因は、間にいるオマエだ、アンヌ。そンくらい気付けっての。」
「あ……。」


すっかりパンチの手を止めてしまった猫ちゃん達は、今は各々自由に私の身体に擦り寄っている。
アイオリア様は膝に頭を擦り付け、シュラ様は腕に縋り付いて、首から頬に掛けてスリスリ攻撃の真っ最中。
猫の姿をしているから、どうにも自覚が湧かないけれど、彼等は私の取り合いをしていると、そういう事だったのだわ。


「ミャ、ミャミャミャミャッ。」
「ミ、ミィ、ミミミッ。」
「わ、何ですか?」
「ミ、ミャー。」
「俺かコイツか、どっちかを選べっつってるぞ。」
「ええっ?!」


そ、そんなの無理無理!
人間の姿であれば、躊躇いなくシュラ様を選びますけれど、こんなに可愛い猫ちゃんの姿をしているのだもの。
どっちも離し難いというか、どっちも愛でたいというか……。


「二匹纏めて撫で回したい、というのが本音です。」
「オマエがそんな態度だから、ネコ競り合いが起きてンだろが。」
「ミャッ。」
「ミィッ。」
「ううっ……。」


そして、また始まる、私の膝を挟んでの『猫VS猫』のネコ競り合い。
私は溜息を吐きつつ、その背中を二匹同時に撫で回すしかなかった。



→第10話へ続く


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