私の世界の中心は



バタンと無駄に派手な音に続いて部屋へと入ってきたデスは、零れる巨大な欠伸を隠しもせずに、ソファーに腰掛けていた私の前を、大股で横切っていった。
私の方はチラとも見ない。
デスが私の事を空気と同等と思っているのは昔から変わらないと分かっているから、そんな事は気にせずに声を掛ける。
ドスドスと響いていた足音がピタリと止まった。


「おかえり、デス。」
「……おう。」


疲れているのか、面倒なのか。
返ってくるのは、相変わらず短くてぶっきら棒な返事。
呆れの溜息を漏らしそうになるのを堪えて、私は何とか話を続ける。


「思ったより早かったのね。戻りは、明日の夜くらいになるかと思っていたけど。」
「三日間、ぶっ通しで任務に当たってたからな。ずっと寝てねぇし。」
「徹夜? 三日も?」
「……あぁ。」


デスが居たのはイタリア。
勿論、任務で。
それも、四・五日は掛かりそうな任務。


イタリアに行くのなら、ついでに私をシチリア島へと送り届けて欲しい。
デスを送り出す際、そう喉から出掛かった言葉は、何とか飲み込んだ私。
詳細は教えてもらえないけれど、長年連れ添っていれば、雰囲気で分かる。
それが、どの程度の任務なのかは。
危険度は高くなさそうだったが、達成するのに困難な内容だったに違いないのだ。
私の事など構っていられないくらいには。
だからこそ、余計な懇願はしない事にした。


「そんなに頑張らなきゃならない程だったの? ずっと寝てないだなんて……。」
「ズルズル長引かせたくなかったンだよ。それに、下手に目を離すよりも、寝ずの番で目を凝らしていた方が、良い結果が出ると踏んだ。で、その通りになった。流石は、俺。」
「何でしょう。最後に無駄な自分自慢がくっ付いてる気がするんですけど?」
「オマエの気のせいだろ。」
「お前じゃなくて、ミカですけど?」
「オマエで十分だろ。」


結局は零れる呆れの溜息。
先程、無理に堪えたのが馬鹿らしく思える。
これ以上、何か言うのも無駄な気がして、私は無言で立ち上がると、キッチンへと足を向けた。
時刻は夜の九時を少し過ぎたところ。
徹夜続きで疲れているといっても、流石にお腹も空いているだろう時間。
まさか今日、戻ってくるとは思っていなかったから、ちゃんとした食事は出せないけれど、有り合わせの間に合わせであれば、お腹が満たされる程度のものは用意出来る。


だが、そんな私の行動は、当のデス本人によって止められた。
お腹を満たすよりも、兎に角、睡眠を取りたいらしい。
命を懸けた闘いの中に身を置く聖闘士ゆえ、普段なら数日は睡眠を取らなくても平然としているデスだが、今夜はいつもと様子が違って、酷く疲れ切った様子。
ずっと神経を張り巡らせていたために、ドッと疲労感が押し寄せてきているようだった。


「メシはいらねぇ。シャワー浴びて、寝るわ。」
「良いの? パスタくらいなら直ぐに出来るわよ。作り置きで冷凍したトマトソースとか、ボロネーゼソースもあるし。」
「悪ぃ、食う気しねぇンだわ。」


あのデスが、相当に弱っている?
どれだけ神経を擦り減らしたのだろう。
この任務に、そんなにも頑張る意義があったのだろうか。
らしくないデスの姿に呆然としている間に、彼は浴室へと消えていった。





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