一方的決め付け恋愛9



「オイ! まだか、アディス!」
「は、はいっ! すみません、デス様!」
「遅ぇぞ!」


慌ててキッチンから飛び出した私は、出来立てホカホカの大海老のアヒージョと、アサリのアヒージョをテーブルの上にゴトリと置く。
すると、酔っ払い三人組がワラワラと手を伸ばし、フォークでそれを突っ付き始めた。
カリカリに焼いたパンの上に乗せて食べれば、齧り付く音がパリパリと小気味良く響く。


「うん、美味しいよ。」
「あぁ、味付けも丁度良い。」
「有り難う御座います。アフロディーテ様、シュラ様。」


どうやら、お二人の口には合ったみたいで、ホッと一安心。
だが、味には煩い俺様暴君な約一名については、そうはいなかった。
そう、最初から文句を言われる事くらい分かっているもの。


「これが美味い? 丁度良い? オマエ等の味覚、相当ヤバいンじゃねぇの? 全然、ダメ。味が薄い。」
「俺は、これで良いと思うが?」
「普通に夕飯として食うならな。だが、今は酒のつまみ。味は濃い目じゃなきゃ、物足りなくなる。」


はいはい、そうですか、次のお料理は気を付けます。
もう、本当にお料理の事となると容赦ないのだから。
お客様が居ようと何だろうと、無関係に駄目出ししてくる。
それだけ、お料理に対してはこだわりが強いって事なのだけれども。


「デスマスク。少し言い過ぎじゃないのかい? そんなに強く言われては、アディスが可哀想だろう?」
「言い過ぎじゃねぇよ。コイツ、何度言って聞かせても進歩しねぇンだから。学習能力皆無だろ。」
「デス様が納得するレベルに達するまでには、あと二十年はお料理修行しないと無理な気がします。」
「確かに、アディスの言う通りだな。」
「だったら、死ぬ気でやりゃイイだろ。」


優しく助け船を出してくれるアフロディーテ様とシュラ様に対して、デスマスク様の不機嫌さは増すばかり。
ノンビリ会話などしていたせいか、早く次の料理を持ってこいと、怒鳴られてしまった。


「おいおい。アディスはお前の恋人だろ?」
「だから、何だ?」
「あれじゃ、恋人というより、召使いじゃないか。ちょっと扱いが酷過ぎると思うんだけどね。」
「ヒドい? 十分に手加減してやってンだろ。あれが男なら、既に蹴りの一発や二発、入ってるぜ。」


酔っ払っているせいか、三人とも声が大きくなっている。
キッチンでワタワタと次のお料理の用意をしていても、ハッキリと聞こえてくる彼等の会話。
釣った魚には餌はやらないのか、とか。
あれでは生殺しだ、鬼畜だな、貴様、とか。


「うっせー。俺は魚を釣った覚えもねぇし、生殺しにしてる覚えもねぇ。」
「アレでか? だとすると、鬼畜を越えて、大鬼畜だな。」
「違ぇよ。ちゃーんと毎晩、昇天させてやってンだから、生殺しになンざしてねぇって事だ。」


ああ、もう!
本っ当にお下品なんだから!
私が魚なら、どうしてこんな人に釣られてしまったのか。
自分自身の事ながら、甚だ疑問に思うばかり。
だけど、愛想を尽かせて出ていく事は自由に許されていても、それをしないでいる私。
つまりは、出ていく気など微塵もない、そういう事なのだ。


私は出来上がったお料理のお皿を、少し乱暴にドンッとテーブルに置くと、彼がワインを煽っていたグラスを、その手から奪い取ってやった。
ああっ?!と、少しの怒りと少しの後悔を含んだ声が上がったけれど、そんなもの知らないわ。
それを思い知らせるためにも、ツンとそっぽを向いた私だった





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