「これ、まだ使ってたんだ。もう六年も経ってるのに……。」
「六年っつっても、俺自身、ココには、あまり居ねぇからな。劣化してねぇなら、買い換える意味もねぇだろ。」
「それはそうだけど……。」


正直、ココには、私以外の別の誰かを囲ってるんじゃないかって、疑っていた。
この人は黄金聖闘士だもの。
あれだけ激しい戦いの日々を送っているなら、そうであってもおかしくはない。
だから、それについては何も責める気はなかったし、許すつもりでもいた。


デスは私なしでは夜を越せない。
それはつまり、私は彼に縛られているけれど、彼もまた、私に縛られている。
そういう事でもあった。
だから、少しくらいの逃げ道はあっても良い、そう思っていたのに。


「てっきり、この部屋は、他の女の人の色に染まってるんじゃないかって、思ってたの。だから、私を聖域に連れ帰るのを嫌がるのかなって。」
「アホか。オマエ以外の女相手に、無駄な体力を使って、どうする? ロクに寝れもしねぇし、休めやしねぇってのによ。分かってンだろ。俺が本気で抱けンのは、ミカ、オマエだけだ。」
「それは分かってるけど……。」


分かってはいても、意外だった。
どうやら、この人は私が知っている以上に紳士で、真面目な人だったようだ。
六年も一緒にいて、まだこんな風に新しい発見があるなんて、本当に驚いた。


私は部屋の中を見回し、それから、通り抜けてきたばかりの巨蟹宮の中を思い返した。
もう以前の宮とは違う。
そこには昔のように、壁にも柱にも床にも天井にも、死仮面の一つもなかった。
あの戦いを経て、全ては浄化され消え失せてしまったのだ。
それでも、未だヒシヒシと感じ取れる悪霊の気配。
一度、浄化されたとはいえ、聖闘士である彼の戦いに終わりはない。
この人を恨む霊は、この人がこの世から消えない限り、彼を憑き殺そうと纏わり続けるのだろう。


「俺がココに来たがらねぇのは、ココが一番、悪霊の密度が濃いからだ。ヤツ等の力も強ぇしな。うかうか寝てられねぇンだよ、ココじゃ。だから、出来るだけ早くシチリアに戻って、オマエの傍で眠りてぇ。それだけだ。」
「なら、私をココに連れてきたがらなかった理由は?」
「それは……。ミカに取っちゃ、ココが、この聖域が故郷みてぇなモンだろ?」


だから、一度、聖域に帰ってしまったら、もうシチリアには戻りたがらないのではないかと思った。
そう、子供のように拗ねた顔をして呟いたデスが、何だかとても可愛く見えた。


「バカね。私の居場所はデスの居る場所よ。デスがココに居たいって言うなら、私もココに居るし、シチリアに居たいと言うなら、あの島にずっと居る。貴方が居る場所が、私の居る場所なの。分かってるでしょ、そんな事。ずっと前から。」
「……そうだな。すまねぇ。」


珍しく素直に謝って、いつものようにバリバリと銀の髪を掻き毟る。
私達は、この六年で随分と大人になってしまったと思っていたけれど、実際は、あの時と何も変わらない、少年少女のままなのかもしれない。
アテナ様の巫女である事も忘れ、ただデスのためにだけ、彼のためだけに生きたいと願った、あの頃と。


「さぁて、と。アテナの嬢ちゃんとの面会は夜だし、それまで、久し振りに俺のベッドで、ジックリと楽しもうぜ。なぁ、ミカ。」
「は? ちょっと、デス! こんなお昼間から何を言って……、きゃっ!」


問答無用で抱き上げられて、運ばれるのは奥の部屋。
押し潰されそうな勢いで圧し掛かられて、抵抗など直ぐに消えてなくなった。
そして、デスの匂いが染み付いたベッドの上で見た真昼の夢は、狂おしい程に深く濃く、激しくて。
六年前の、あの懐かしい日々を、私の心に強く思い起こさせた。



目眩がする程に変わらないもの



この聖域も、デスも、私も。
何も変わってなどいない。
六年前に始まった、この恋の最初の日から、ずっと……。



‐end‐





シチリア蟹夢、進めました。
普段のウチの蟹氏とは違い、このシリーズの蟹氏は少しだけ『子供っぽくて我が儘』に書きたいと思っております。
特に今回は、それが強調されているかなぁ、と思ってますが、どうでしょうか。

2013.10.20



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