それから、私はデスと腕を組んで、聖域の道を進んでいった。
正確に言えば、彼の腕に、私が勝手に自分の腕を絡めていただけなのだけど。
デスは多少、嫌な顔をしつつも、私の腕を振り払おうとはしなかった。


聖域内部に張り巡らされている道は、舗装されていない。
土を固めただけの道は上り坂でもあったし、砂利や穴もあり、ゴツゴツしていて足を取られ易い。
そんな事もあり、私は楽に歩けるスニーカーを履いていた。
それでも多分、私が転んでしまわないようにと気を遣ってくれたのだろう。
腕を振り払わなかったのは、そういう事なのだ。


それでも、まぁ、人の気配がすれば、直ぐにも振り離されてしまったし。
白羊宮が見えてきた辺りからは、隣を歩く事すら許してくれなかったのだけれど……。


この人の性格は知り過ぎる程に、良く知っている。
彼の仲間達、同じ黄金聖闘士達に、私と連れ立って歩いている姿を見られたくはないのだ。
本当は優しく紳士なクセに、自尊心が強くて、見栄っ張りで、格好付けたがりで。
六年前に自分の『モノ』にした女を、今でも大事に扱っているだなんて、そんな事。
誰よりも遊び慣れている筈の蟹座様のイメージではない。
だから、皆に何か言われないように、からかわれたりしないようにと、敢えて私との距離を置く。
私の顔は、雑兵達には知られていなくても、この十二宮の住人達には隠しようもないのだから。


私は、大股で前を歩くデスの揺れる銀の髪を見上げながら、ゆっくりと後を追って歩いた。
先程まで、時折、見せていた気遣いは、今は一切ない。
それでも、私の周りに張り巡らされたデスの小宇宙を感じ取り、私は安心して進む事が出来た。
何かあったら、何だかんだ言いつつも、この人が守ってくれる。
分かっているからこそ、前方に見上げる、その冷たくて大きな背中が、とても愛しかった。


「……結局、誰にも会わなかったね。」


巨蟹宮までに抜けた三つの宮では、誰にも顔を合わせる事はなかった。
一応、通り抜ける際に、デスが声を掛けていたけれど、それに対する返事もなかった。


「そりゃ、こンな真っ昼間から、自宮に籠もってるヤツなンざ居ねぇだろうな。ムウは多分、ジャミールだろうし、カノンも多分、海界だ。アルデバランは、執務か修練か後輩指南か。サガは百パーセント、執務で教皇宮に立て籠もってる真っ最中だろ。」
「なら、この上は?」
「さぁなぁ。居るとしたら、シャカぐらいじゃねぇか。座禅組ンでる振りして、昼寝でもしてそうだ。」


言われて、船を漕ぎつつ座禅を組むシャカさんの姿を思い浮かべる。
私が最後に彼に会ったのは、シチリアに移り住む少し前。
シャカさんは、まだ十四歳で、黄金聖闘士にしては線の細い人だったと、その程度しか覚えていない。


「うわっ。何、これ?」
「あ? ンだよ、ミカ?」
「部屋の中、六年前と何も変わってないじゃない。」


何が驚いたって、踏み入れた巨蟹宮のプライベートルームの中が、私の記憶の中の様子と、何一つ変わっていなかった事だ。
家具の位置も、部屋の色調も、クッションカバーの模様さえも、記憶の中の部屋と、まるで同じ。
こんな事ってあるのだろうか?
あれから六年、何もかもが変わって、この部屋には私の気配など、もう微塵も残ってはいないと思っていたのに。
グルリと見回して見れば、所々に私が持ち込んだものが残っている。
カーテン、クッションカバー、このラグマットも。
デスと二人、一緒に市街に出掛けて行って、買い揃えたものだ。





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