時にはこんな朝も



「〜♪〜♪〜♪」
「なンだよ。今日は随分とご機嫌じゃねぇか?」
「だって、何だかちょっと新鮮で……。」


楽しいんだもの。
そう言うと、私は再び鼻歌を繰り返した。
朝の光に乗って、心地良く響くポップなリズム。


眩しい朝の光が差し込む部屋の中。
私は鏡の前に座っていた。
洗い立ての髪を念入りに梳かしながら、チラと鏡の奥へと視線を送る。
そこには大きなベッドに寝そべったままの『あの人』が映っていた。
何処かダルそうに右へ左へゴロゴロとしている。
慣れない朝寝に、居心地の悪さを感じているのかもしれない。
でも、意固地な人だから、そんな事は絶対に口に出しては言わないのだけれども。


「煙草吸いてぇ。」
「だったら、さっさと起きて、服を着て、外へ行って吸って下さい。」
「タマにはイイだろ? 俺だってゴロゴロしたまま、気持ち良〜く一服してぇんだよ。」
「駄目よ。一回許したら、調子に乗るんだから。」
「ちっ、相変わらず俺に優しくねぇな、オマエは。」


元がマフィアみたいに怖い顔を、更に顰めて不機嫌になる。
だけど、本当はさして不機嫌でもなく、怒ってもいない事を私は分かっていた。
鏡越しに見える表情は、いつもの彼と同じ。
ただ私との言葉遊びを楽しんでいるだけ。
互いに罵って、言い合いして、そうやってじゃれ合う私達。


「つか、もう早、身支度なンかして、どうすんだよ? 折角、邪魔者のいねぇ休日なんだし、もっとノンビリ楽しもうとか思わねぇのか、オマエは?」
「オマエじゃない、ミカ。」
「また、それか。うぜぇ。」
「デスがちゃんと名前で呼んでくれないからでしょ。」


背後でゴソゴソと音がして、彼がやっとベッドから身体を起こした。
鏡越しに見ても分かる、無駄な肉なんて一切見当たらない見事な身体を惜しげもなく晒して、大きく伸びをする。
朝の光に照らされた筋肉の一つ一つの線がとても綺麗で、思わず振り返ってマジマジと見つめてしまった。
毎日、飽きる程に眺めているデスの身体とはいえ、こうして朝の光の中、無防備な姿で見るのは数年振りのような気がする。


「何、見てンだよ?」
「デスの立派な身体。」
「おーおー、俺の体躯は芸術品だからな。しっかりと拝んで、網膜に焼き付けておけ。」
「自分で良く言うわね。」


言わずと知れた事だけど、弟子持ちの聖闘士は朝が早い。
早朝から修練、特訓、実地訓練。
それが休む日もなく続けられる。
前日が任務で夜遅かろうが、調子に乗って私を組み敷いて寝不足だろうが、朝寝坊なんて決して出来ない。
悪名高い蟹座のデスマスクが、そんな規則正しく早起きなんて有り得ないだろう、なんて思われているかもしれないけれど。
プライドの高い彼だから、弟子の前ではだらしない(というか弱ってヘタばってる)姿なんて絶対に見せたくないのだろう。
毎朝、私が夢の世界にいる間に起き出して、弟子との早朝トレーニングに励んでいるっていうのが、実際のところだ。





- 1/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -