「どうしたもこうしたもナイでしょ? 早く家に帰って来て下さいよ。じゃないと師匠、不貞腐れて、苛々して、手が付けられないんスから。」
「嫌よ。悪いのはアイツだもん。あのバカが謝ってくれたら、帰って上げるわ。」


プイッと顔を背けて、私は再び海の方へと向き直った。
高い崖の上のこの場所で、私はブラブラと足を揺らす。
広がる眼下の景色には、殺風景な土地の隅にポツンと建つ小さな家が一つ。
その狭い家の中には、不機嫌に歩き回るアイツがいる事、私には手に取るように分かっていた。


ホンの些細な事で喧嘩をした。
つまらない理由で言い争いをしてしまった事は、バカだったと思う。
デスも……、勿論、私も。


もう何年も二人一緒に居て。
その上、ココで共に暮らすために、この島に移り住んだくらいだもの。
デスの性格なんて十分過ぎる程、良く分かっている筈なのに。


なのに、今日は自分の気持ちを抑える事が出来ず、私は彼に食って掛かった。
挙句、激しい言い争いになり、そのまま家を飛び出してしまったのだ。


「ミカ姐さん。ココって師匠に近付くなって言われた場所でしょ? 良いんスか?」
「良いのよ、別に。アイツが何て言おうと、放っておけば。」
「はぁ、そっスか……。しっかし、二人して頑固なんスから、全く。師匠が益々、不機嫌になっても知らないですからね。」


盟はそう言い放って、夕焼けの中に溶けて消えゆくように立ち去り、その姿を消した。
そして、たった一人、その場に残された私は、誰も居ないのを良い事に、小さく溜息を吐く。
そう、どんなに強がってみたところで、私がデスを想う気持ちは変わらなくて。
結局は後悔しているのだ、自分が言ってしまった言葉を。


海へと徐々に傾いていく夕陽の、波に揺れる色が。
一面の青を浸食して赤々と燃える空の、切ない夕焼けの色が。
デスの、あの鋭くも深い瞳の紅い色に、あまりにも良く似ているから。
日没と共に深まりゆく切なさを止められそうにない。


私はもう一度、溜息を吐いた。
今度は深く長く、ハッキリそれと分かる程、大きな溜息を。


と、その瞬間――。


「オマエな。ンな溜息、長々と吐いてンなら、とっとと謝れっての。」
「ひゃっ?!」


突然、耳元で聞こえた、予期せぬデスの呆れた声。
私は驚きのあまり、その場に飛び上がりそうになる。
だが、その途端。
心を落ち着かせる余裕もないまま、私はデスに後ろからギュッと抱き締められていた。





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