ハニーチュロス



濃いめに淹れた熱い紅茶を啜り、溜息と共に額を押さえた。
頭の奥がジンジンと痛むが、それ以上に、身体の中にモヤモヤと燻る疼きが、どうしようもないダルさとなって全身を包んでいる、今朝のこの状態。
言ってしまえば、睡眠不足と欲求不満。
身体の重さが、普段の二倍以上に感じられる程だ。


こんな時は、トレーニングにでも出て、スカッと汗を流せば、少しは解消出来るんだがな。
だが……、思いながらもチラとキッチンの方へ視線を送る。
丁度、甘く良い匂いが漂ってきたそこでは、飛鳥が汗だくになりながら、女神への献上品である菓子を作っているところだ。
昨夜、作ると言い張った、俺の好物であるチュロスを。


「はぁ……。」


無意識に、またも零れる溜息。
首を振り、肩を回しても、凝り固まった身体は一向に解れず、もう一度、額を押さえ、テーブルに肘を付いた。


「やぁ、おはよう、シュラ。おや、随分と気分が悪そうだね?」


思った通り来たか、アフロディーテ。
苛立つ俺をからかって、良い気分になりにでも来たか?
返事の言葉もなく、俺は額を押さえる手はそのままに、指の間からギロリと睨み上げた。


「ちゃんと仲直り出来たかと心配で見に来たんだけど、その分じゃ、あれかい? 仲直りはしたけど、その後のお楽しみは上手くいかなかった、ってトコかな。」
「……誰のせいだと思っている。」
「私のせい? とんだ言い掛かりだな。」


言い掛かり?
折角、仲直り後の夜を、熱く愛を交わして過ごそうと思っていたのに。
すっかり酩酊していた飛鳥は、そうなる前にダウンだ。
昨夜、彼女と一緒に過ごしていた相手なら、何故、あんなに飲ませたのかと怒りが湧くのも当然だろう。


飛鳥が余りに懇願するから、ベッドへは直行せず、シャワー室へと向かったのが、また悪かった。
酒漬けの酔っ払った身体に熱いお湯を浴びて、湯当たりになってしまう可能性に思い至らなかった自分も、悪いと言えば悪いのだが。
それだけ、俺も余裕がなかったという事。
あの時点で、この身体も心も、これからジックリと楽しむ飛鳥との行為への期待に先走って、彼女を気遣ってやれなかった。
お陰で、このザマだ。


「私は止めたよ。でも、飛鳥は飲み足りないって言うし。そもそも、彼女の暴飲の原因は何だ? キミがちゃんと愛情表現をしないせいで、不安になったからだろう?」
「……愛情表現なら、ちゃんとしてるつもりだ。」
「どうせベッドの中でだけ、だろう? そんなんじゃ女の子が不安になるのは当然さ。自分はセックスのためだけの女なんじゃないか? ってね。」
「…………。」


返す言葉がない。
元々、人前でベタベタするのは得意ではないし、好きでもない。
正直、人目があれば、あからさまに素っ気ない態度を取ってしまう。
分かっているからこそ、夜には深く濃い愛情を注ぎ、俺の気持ちを示していたつもりだったのだが……。
それが返って、相手を不安にさせていたという事か。


「その様子じゃ、今朝も駄目だったって事かい? ま、自業自得だね。」
「……煩い。」
「二日酔いで気持ち悪いとか訴えられたら、手は出せないよね。それで一晩中、甘美な砂糖菓子を抱いて悶々と眠れずにいた肉食山羊さんは、最後の楽しみも奪われて、本日は大いに御機嫌斜めという訳だ。」
「煩いと言っている。」


その通りなのだから、余計に腹が立つ。
全く、コイツは何をしに来たんだ?
あぁ、俺が苦悶する顔を見て、優越感に浸りに来たのか。
飛鳥を手に入れられない腹いせに、俺を不快にさせて喜んでいるんだろう。





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